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第8話

 ギルド拠点に戻ると、そこには一人の男性がいた。細身でとても若いアバター。頭上には〝ノアン〟と書かれている。


 この人もギルドメンバーなのだろうか。まあ、ここにいるのなら、ギルメンで合ってると思う。


 だけど、この青年は何も言わない。ただボーッと立ってるだけだ。私の方から話しかけるか。ただ、まだ私は部外者だ。相手に話しかけられるのを待つべきとみた。


「ノアンさん。新しく入ったルグアさんです」


「ルグア? って、あのルグア!?」


(いやなんでそんなに驚くんだよ……)


「やっぱり。中の人って男性……」


(まあそうなるよな……)


 ノアンがどんどん質問してくる。私はどう切り出そうか悩んだが、先にガロンが動き出す。


「見た目は男性ですけど、中身は――」


「言うな!」


(やっちまった……)


 別に私は男性と思われてもいい。全く気にしていない。そもそも、ある日から私は男性アバターしか使わなくなった。


「じゃ。じゃあ男性?」


 ノアンが問いかけてくる。私は『どっちでも好きに思えばいい』と考える立場なので、本当にどうでもいい。


 キャラカスタムできるゲームなら女寄りの男とか男寄りの女とか、ネカマとかオカマとかそういう人も多い。いわゆる変人プレイヤーだ。


「なるほどです!」


(何がなるほどなんだよ……。お前も変人か?)


「それで。あなたたちは、どこに行ってたんですか?」


 ノアンが尋ねてくる。それに、セレスが回答した。


「さっきまで私たちはフィーバーバグ討伐クエストをしてました。ルグアさんの圧勝で、ちょっと引きましたけど」


「そ、そんなに……。ルグアさんはいつからこのゲームを?」


「……今日」


「きょ、今日!? ってことは受注できないんじゃ……」


 彼は驚いた表情で、身体を仰け反らせる。まあ、そういう反応は予想していた。


 即座にガロンがフォローを入れ、セレスが『自分が代わりに受注しました』と伝える。


 やっぱり友は大事だな。そう思っていると、体勢を立て直したノアンが近づいてくる。


「ぜ、ぜひ、リアルでお会いしたいです……!」


(なんだ、この展開は……)


 もっとも、今この姿の私を見て本当に男性だと思ってるなら、ルグアロス的な現象が起きないか心配だ。


 リアルで低身長の私は、どうしても目立たない。


 きっと、それもあるから男性アバターを。いやそれ以外にも理由はあるはずだ。


「ダメ……ですか……?」


「あ、ああ……。別に私はいいが……。期待外れかもしれないぞ?」


「期待外れ?」


「決して相手が男性だとは限らない。最初から選択肢を複数作れば、精神的にも優しいと思うな……」


「なるほど……!」


(だからなんでそこで〝なるほど〟なんだよ。こいつ、ちゃんと理解できたのか?)


「じゃあ、今は観察しておきます」


「は? 私を観察ってなんだよ?」


「だって、行動とかで性別の癖とかあるじゃないですか。僕もルグアさんを研究したいですしおすし」


(ネタ古!)


 こいつマジな変人だ。まあ、そういう執着の強そうなメンバーが残っていると……。


 私は椅子に座る。よく見たらこれは円卓だ。これならたしかに全員の顔を見ることができる。


 だけど、席はスカスカだ。かなり人数が減ってしまったんだなと場の状況を理解する。



「さて、ノアンさん。ギルドイベント情報何か掴めた?」


「はい。なんとか情報網を辿って見つけました。今度の敵はドラゴンらしいです。もうイベントは始まってるようですが、クリアした人はいないとの情報です」


「ありがとう。ドラゴンね……」


 セレスはウィンドウを操作しながら整理を進める。私も様々なゲームでドラゴンと戦ってきたけど、どれも動きがパターン化されていて、面白くなかった。


 だからか、このゲームでのドラゴンにもほんの少し期待している。今までとの違い。それを見せつけてくれれば、運営陣の個性が活きる。


「なあ、私からの提案なんだが……」


「なんでしょう。ルグアさん」


「そのドラゴン。ソロでやってもいいか?」


「『そ、ソロ!?』」


 私の意見に他メンバーの声が重なる。まあ、これも想定内だ。ドラゴンなんてものはソロで狩るような敵じゃない。


 パーティプレイを想定された敵の体力ゲージは中ボスよりも多く、防御力も高い。加えて装甲も硬く設定されていたりとかもする。


 そういうものに限って、肉質設定とかあるがこれも正直参考にはならない。あくまでもそのような設定なだけで、実際は誤差だ。


「ルグアさん本気ですか?」


「ん」


「わかりました……」


(へ? 許可おりた系?)


「その代わり、戦闘には参加しませんので、私達も同行させてください。それが条件です」


「了解。んじゃ行くか……」


 こうして、ギルドイベントに参加することになった。場所はサーカス会場入口。ここにボス部屋に続くゲートがあるらしい。


 フロアは薄暗く、中央に渦巻く扉。ここがきっとボス部屋への移動経路だ。私たち4人は、一緒に入る。そこにいたのは、四つ足で仁王立ちする深紅のドラゴンだった。

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