ギルド拠点に戻ると、そこには一人の男性がいた。細身でとても若いアバター。頭上には〝ノアン〟と書かれている。
この人もギルドメンバーなのだろうか。まあ、ここにいるのなら、ギルメンで合ってると思う。
だけど、この青年は何も言わない。ただボーッと立ってるだけだ。私の方から話しかけるか。ただ、まだ私は部外者だ。相手に話しかけられるのを待つべきとみた。
「ノアンさん。新しく入ったルグアさんです」
「ルグア? って、あのルグア!?」
(いやなんでそんなに驚くんだよ……)
「やっぱり。中の人って男性……」
(まあそうなるよな……)
ノアンがどんどん質問してくる。私はどう切り出そうか悩んだが、先にガロンが動き出す。
「見た目は男性ですけど、中身は――」
「言うな!」
(やっちまった……)
別に私は男性と思われてもいい。全く気にしていない。そもそも、ある日から私は男性アバターしか使わなくなった。
「じゃ。じゃあ男性?」
ノアンが問いかけてくる。私は『どっちでも好きに思えばいい』と考える立場なので、本当にどうでもいい。
キャラカスタムできるゲームなら女寄りの男とか男寄りの女とか、ネカマとかオカマとかそういう人も多い。いわゆる変人プレイヤーだ。
「なるほどです!」
(何がなるほどなんだよ……。お前も変人か?)
「それで。あなたたちは、どこに行ってたんですか?」
ノアンが尋ねてくる。それに、セレスが回答した。
「さっきまで私たちはフィーバーバグ討伐クエストをしてました。ルグアさんの圧勝で、ちょっと引きましたけど」
「そ、そんなに……。ルグアさんはいつからこのゲームを?」
「……今日」
「きょ、今日!? ってことは受注できないんじゃ……」
彼は驚いた表情で、身体を仰け反らせる。まあ、そういう反応は予想していた。
即座にガロンがフォローを入れ、セレスが『自分が代わりに受注しました』と伝える。
やっぱり友は大事だな。そう思っていると、体勢を立て直したノアンが近づいてくる。
「ぜ、ぜひ、リアルでお会いしたいです……!」
(なんだ、この展開は……)
もっとも、今この姿の私を見て本当に男性だと思ってるなら、ルグアロス的な現象が起きないか心配だ。
リアルで低身長の私は、どうしても目立たない。
きっと、それもあるから男性アバターを。いやそれ以外にも理由はあるはずだ。
「ダメ……ですか……?」
「あ、ああ……。別に私はいいが……。期待外れかもしれないぞ?」
「期待外れ?」
「決して相手が男性だとは限らない。最初から選択肢を複数作れば、精神的にも優しいと思うな……」
「なるほど……!」
(だからなんでそこで〝なるほど〟なんだよ。こいつ、ちゃんと理解できたのか?)
「じゃあ、今は観察しておきます」
「は? 私を観察ってなんだよ?」
「だって、行動とかで性別の癖とかあるじゃないですか。僕もルグアさんを研究したいですしおすし」
(ネタ古!)
こいつマジな変人だ。まあ、そういう執着の強そうなメンバーが残っていると……。
私は椅子に座る。よく見たらこれは円卓だ。これならたしかに全員の顔を見ることができる。
だけど、席はスカスカだ。かなり人数が減ってしまったんだなと場の状況を理解する。
「さて、ノアンさん。ギルドイベント情報何か掴めた?」
「はい。なんとか情報網を辿って見つけました。今度の敵はドラゴンらしいです。もうイベントは始まってるようですが、クリアした人はいないとの情報です」
「ありがとう。ドラゴンね……」
セレスはウィンドウを操作しながら整理を進める。私も様々なゲームでドラゴンと戦ってきたけど、どれも動きがパターン化されていて、面白くなかった。
だからか、このゲームでのドラゴンにもほんの少し期待している。今までとの違い。それを見せつけてくれれば、運営陣の個性が活きる。
「なあ、私からの提案なんだが……」
「なんでしょう。ルグアさん」
「そのドラゴン。ソロでやってもいいか?」
「『そ、ソロ!?』」
私の意見に他メンバーの声が重なる。まあ、これも想定内だ。ドラゴンなんてものはソロで狩るような敵じゃない。
パーティプレイを想定された敵の体力ゲージは中ボスよりも多く、防御力も高い。加えて装甲も硬く設定されていたりとかもする。
そういうものに限って、肉質設定とかあるがこれも正直参考にはならない。あくまでもそのような設定なだけで、実際は誤差だ。
「ルグアさん本気ですか?」
「ん」
「わかりました……」
(へ? 許可おりた系?)
「その代わり、戦闘には参加しませんので、私達も同行させてください。それが条件です」
「了解。んじゃ行くか……」
こうして、ギルドイベントに参加することになった。場所はサーカス会場入口。ここにボス部屋に続くゲートがあるらしい。
フロアは薄暗く、中央に渦巻く扉。ここがきっとボス部屋への移動経路だ。私たち4人は、一緒に入る。そこにいたのは、四つ足で仁王立ちする深紅のドラゴンだった。