目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第9話 (前編)

 広い屋内フィールド。中心にいる紅いドラゴン。その出で立ちは威圧感とは少し違った。私は、剣を装備して前へと進む。


 目の前に立つとドラゴンは視線を向けた。鋭い眼光はとても凛々しく、大人しそうなイメージだ。龍鱗はゴツゴツしていて、逆立っている。


 怒っているのか、それとも興奮しているだけなのか。ただ互いを見つめあってるだけ。私は自分から動くことは、例外を除きしない。


 例外だったのは、今朝の一戦。あれは、助けないとという気持ちと、名前を奪われた怒りが突き動かしたものだ。


「ルグアさん!」


 ガロンの声が空間全体に響く。


「わかってるって、今は様子見だ。大型エネミーは――いや、大型モンスターは行動の読み合いなんだよ」


「で、ですが……もう開始から10分経ってます!」


 そんなのはわかってる。タイムアタックとかでも、どんな時でも時間は気にする。というか、ゲームのタイムよりも自分の体内時計の方が正確だ。


 ガロンは『10分』と言った。それは、視界に映るモニターに書かれた数字。実際の戦闘経過時間はマイナス3分。つまり、7分経過だ。


 それでも、ドラゴンの行動が読めない。こちら側の動きにかなり敏感にプログラムされている。そうなってくるとバトルは終わらない。


「よし。わかった」


 結局時間がもったいないと判断した私は、こちらから攻めることにした。地面を蹴る、距離を測り思考を巡らせるため、剣を数回手のひらで回す。


 3回柄を握り直したタイミングで、ドラゴンの右前脚へと到達。肉薄開始。しかし、堅い鱗には刃が入らない。


 こういうタイプは、攻撃を繰り返す毎に肉質変化をするものが多い。それに倣って、何度もも斬りつける。


 通常攻撃ではダメージが少ない。思考で行うコマンド入力速度を限界値まで引き上げた。


「こんなの聞いてない……!」


 斬っても斬っても、手応えを感じない。こんなに強い大型モンスターは初めてに近かった。



 ひたすら、ただひたすら腕を動かす。一定時間攻撃するとドラゴンの脚が崩れたが、すぐに回復し立ち上がった。


「キリがねぇよ! こうなったら!」


 私は一旦ドラゴンから離れる。フィーバーバグと戦った時同様、壁を駆け上り相手の左翼を狙って飛び込んだ。


 風圧は気持ちがいい。しかし、バトルはやや厳しい状態。それでも、一人で成し遂げたい思いが強まっていく。


 前方にある壁。そこに描かれた模様。数多くの植物があしらわれており、ドラゴンを中心に緑が広がる。


 これがゲーム側のラグだとすぐにわかった。時間差でギミックが発動し、反映される。これは、かなりの欠陥部分だと解釈する。


 同時にドラゴンが動きだす。振り被ってくる太い尾。それはセレスたちのほうへ向かって飛んでいった。


 私の地上落下。後方側に落ちた左足に力を入れ、彼女たちのもとへと走る。3人を回収し安全な場所目掛けて疾走。


 目的地に着くとそこで下ろし、すぐさまドラゴンへ接近。あの尻尾は非常に厄介だ。動かないからと言って油断していた私が悪い。


「頑張って!」


「だからわかってるって。今回のでこのゲームは個人的にイカれてる部類に入った。その分戦いづらいんだよ」


「でも、フィーバーバグは……」


「あれとこれじゃ、レベルが違う。私の見立てだと、こいつのレベルは私基準で1万だ」


「い、1万!?」


 わざと大袈裟に説明し。意欲低下を図る。こちらの士気が倍増する。ワクワクが止まらず、口角がヒョイと上がった気がした。


「とにかく攻める。相手の攻撃が当たらない位置に移動しながら見てくれ。ヘイトは私が全部溜めるから安心しろ!」


「『はい!』」


(まずは、あの尻尾を切るか……)


 私は尻尾の方へと移動する。そこから、先端を切り刻む。ゲームが正常に動き始めてから、戦いづらくなった気がした。


 こんな敵過去にいただろうか、バグで進まない相手はたしかにいた。延々と続くエンドレスボスもいた。


 だけど、ラグはあれどここまで戦略的に近い戦闘方式。


 ドラゴンは重そうな図体を全面に押し出す動きで、私に接近する。敵の右足が頭上に来た。ダッシュで逃げるか。それとも受け止めるか。


 私の能力でなら受け止めて受け流すことは、決して不可能ではない。だが、反動はかなり出るだろう。


 ここは逃げを選択したい。が、相手の動きが上回った。私は剣を掲げ、受け流しのコマンドを入力する。


「ルグアさんが潰されてしまいそうです!」


「頑張ってください……。ルグアさん……!」


「が、頑張ってください……!」


 仲間が応援してくれている。そうだ、過去にプレイしたゲームとの違い。これまで遊んだのはソロプレイが基本のものだった。


 だからだ、今の自分なら限界以上の能力を発揮できるはず。全力で両腕に力を込める。この相手を一人で倒す。今はそれだけを考える。


「倒れて……気絶スタンしろォォ……!」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?