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第10話

禁書庫の奥、隠された地下への石段。湿った土の匂いが鼻につく。なんでこんな匂いかって?そら、昔っから血ぃ染み込んどるからやろな。


地下祭壇を見た瞬間、深冬の考古学者としての本能が警鐘を鳴らした。


「この石舞台…縄文後期の配石遺構に似とるけど、文様が全然違う。これ、もっと古い。原始宗教の痕跡やわ」


黒曜石の表面に刻まれた幾何学模様。教科書で見たことのない、けれど妙に既視感のある文様。


「この石舞台で、シラヌイ様との精神同調を試みます」


耀の声が妙にこもって聞こえる。翡翠色の瞳が、薄暗い洞窟でぼんやり光っとる。


「目を閉じ、意識を心の奥深くへ。あなたの恐怖、怒り、悲しみ、絶望を、全てシラヌイ様にぶつけるのでございます」


深冬は冷たい石舞台に座った。ひんやりした感触が太ももに伝わってくる。現実やってことを確認するみたいに、手のひらでザラザラした石の表面を撫でた。


「ほんまに、こんなことで…」


でも、もう後には引けへん。


意識を内側へ沈める。すぐに、あの日の記憶が蘇った。小春の最後の笑顔。暗い森。自分の無力さ。


『あかん、あかん、また逃げとる』


その恐怖と悲しみを、今度は怒りに変えて、見えへんシラヌイ様にぶつけた。


『なんで!なんで小春を奪ったんや!』 『なんでこんな理不尽が許されるんや!』


その瞬間、濁流みたいに記憶が流れ込んできた。シラヌイ様が取り込んだ無数の「記憶」。過去に犠牲となった娘らの絶望と苦しみ。


まさに地獄絵図やった。この村の繁栄の裏で、どんだけ多くの命が失われたんか。


「しっかりなさい、七瀬深冬殿!その濁流に飲まれてはなりません!奴の意識の奥へ、さらに深く潜るのです!」


耀の声が遠くから聞こえる。でも、なんか違和感がある。さっきより声に力がない…?


「うう…ああ…!」


深冬は歯ぁ食いしばって意識を保った。シラヌイ様の「核」への道筋を探る。


その時、外から荒々しい足音が聞こえた。


「裏切り者どもめ!祠堂耀様と魔女はどこじゃ!」 「シラヌイ様を冒涜する気か!」


長老衆と村人たちが迫ってきた。でも、耀の表情を見て、深冬は気づいた。


こいつ、全部予想しとったんや。



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