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第11話

「来ましたね」


耀は予期していたように呟いて、深冬の前に立った。手には抜き身の日本刀。月光が刃に反射して、妖しく光っとる。


でも深冬は気づいてしもた。この人の立ち位置、わざと村人らに背中を見せとる。まるで自分を庇うふりして、実は…。


「七瀬深冬、あなたは同調に集中を。ここは私が食い止めます」

「でも、耀さん!あなた一人では…!」 

「時間がございません。もう、これ以外に道はないのです」


悲壮な覚悟を込めた声。でも、なんでやろ。目の奥に、ちらっと歓喜の光が見えた気がした。


深冬は唇を噛んで、再び意識をシラヌイ様の深層へ集中させる。でも、耳はこっちの状況を聞いとる。


狭い石段が激しい音と共に破られた。長老衆を先頭に、棍棒や農具を手にした村人たちが雪崩れ込む。


「おのれ、祠堂耀!よくもシラヌイ様を裏切ったな!」

「その魔女と共に贄となれ!」


耀は古流剣術で、襲いかかる村人たちを次々かわしていく。でも、なんか変や。動きが妙に演技臭い。まるで深冬に何かを見せつけるみたいに。


深冬の意識は、シラヌイ様の記憶の最深部へ潜る。そして、ついに「核」を発見した。暗闇で脈動する巨大な肉塊。心臓みたいに赤黒い光を放っとる。


気持ち悪。でも、これや。


「見つけた!これがシラヌイ様の核や!耀さん、今やで!これを破壊すれば…!」


その瞬間やった。


耀は最後の村人を打ち倒して、ゆっくりと深冬に向き直った。その顔に浮かぶのは、歪んだ恍惚の笑み。


あかん。全部、罠やった。


「素晴らしい、実に素晴らしゅうございます、七瀬深冬殿」


血に濡れた刀の切っ先が、深冬に向けられる。


「しかし、あなたは致命的な勘違いをなさっている」 

「え…?何を言うて…?」 


「シラヌイ様を滅ぼす?とんでもない。私はこの偉大なる存在を、この窮屈な村から『解放』するのでございます。そして七瀬深冬殿、あなたはそのための最も完璧な『器』であり、私の…我らが新たなる神の、永遠の『伴侶』となられるのですよ」


頭ん中が真っ白になった。


彼は村の因習を終わらせるんやない。自分が新たな支配者として、シラヌイ様と共に君臨しようとしとった。


二度目の、決定的な裏切り。


「あんたも…あんたも結局、この狂った村の狂気に染まりきってたんやな…!私を利用したんやな…!」


深冬の悲痛な叫びが、薄暗い地下祭壇にこだました。


胸の奥で、何かがぽきっと折れる音がした。



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