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第3話 何回か繰り返せば、あら不思議。激しい斬り合いが行われているように見えてきますね

「皆様のグループは、続いて『剣術試験』です。闘技場1に移動いたします」


 いや、エインスさん……。俺、いい加減帰りたいんですけど? だから何で睨んでくるの?


「途中退席は禁止です」

 はい……。

 説明会に参加するだけのつもりが、どうしてこうなった……。



「『ギルドの受付嬢』たるもの、冒険者を導く存在でなければなりません」


 闘技場1に着くと、サブマスター・エインスさんの演説が始まってしまった。


「全員、剣を取りなさい。私に続いて素振りを100回行っていただきます。その様子を見させていただき、この後の実技試験のグループ分けを行います」


 用意されていたのは、古びた木剣だった。

 闘技場の脇に設置された籠に刺さっていた木剣が1人1本ずつ配られていく。



「行きわたりましたね。それでは素振りを始めます。1~!」


 いや、うーん。ここにいる若い子たちは、剣なんてまともに握ったことがないだろう。

 エインスさんの真似をして一生懸命素振りをしているが……まるで基本がなっていないので、はっきり言って見ていられない……。


 何人かは腕に覚えがありそうな子もいるが、ほとんどの子は……って、そもそも『ギルドの受付嬢』にこの試験項目って必要なの?



「アッシュ、貴様はグループAだ」


「へいへい」


「返事は「はい」だ! いついかなる時にも礼儀正しく! 笑顔を絶やすな! それが『ギルドの受付嬢』の基本だ」


「は、はい!」


 いや、俺は別に『ギルドの受付嬢』になりたいわけじゃないんだが……。


「よろしい。それでは3グループに分かれて試験を行います。グループAに選ばれた皆さんは、実戦形式で私と戦ってもらいます。ついてきなさい」


 この有無も言わさない感じ、マジ苦手……。

 セシリスといい、エインスさんといい、何でここの職員って超威圧的なの? 笑顔なら無茶振りしても良いわけじゃないんだぞ? それと、さっきから若干気になっているんですけど、俺に対してだけ丁寧語じゃなくなっているのは何でですかね?


 グループAに振り分けられたのは、俺を含めて3人だけ。おそらく剣術経験者だけが選り分けられたんだろうな。

 ちなみにグループBが多少運動神経が良さそうなグループで、グループCは……か。まあ妥当な組み分けではあると思うが……。



「アッシュ、リングに上がれ。1本勝負だ。『剣術試験』ゆえ、魔術・精霊魔法の使用は禁ずる。良いな?」


「あ、はい。俺は構わないですが……」


 ほらまた命令口調……。

 んー、でも疾風魔法とか、補助系の精霊魔法を使わないと、エルフ族の戦闘能力はかなり低下しそうなんだけど、逆にエインスさんのほうが大丈夫ですか?



「行くぞ! はじめ~!」


 エインスさんは木剣を上段に構えたまま、一気に距離を詰めてくる。

 お、意外と速い。

 疾風魔法を使わなくても、この人普通に強いんだな。まあ、ギルド職員を兼ねているとはいえ、サブマスターだしな。


 エインスさんの初撃を木剣の腹で受け、その後の薙ぎ払いや返し技を体捌きで躱す。

 まずは反撃せずに防御に回って様子を見よう。


 しかし、エインスさんの攻撃は型通りで、とくに工夫がないな。まあ、『剣術試験』だからそういうものなのかもしれないが……単調で正直つまらんな。


「どうした、アッシュ。反撃はなしか? 自慢の魔法剣なしには何もできないと見える」


 エインスさんは一度俺から距離を取り、挑発するように笑った。


「じゃあお言葉に甘えて、そろそろ俺のほうからもいきますよ。攻撃して良いんですね?」


 まあ、実戦形式の試験だし、お互いに斬り結ばないと点数はつけらないよな。

 しかし、一撃で倒れられると困るから、多少手加減しておくとするか。


「じゃあ、お覚悟!」


 左足を溜めて、ジャンプ一閃。

 一気に肉薄し、エインスさんが構えた木剣に向かって上から軽めの一撃。

 準備ができていなかったのか、俺の初撃を受けきれずに態勢を崩しかけたので、すかさず下から木剣を斬り上げる。


 上下上下上下上下上下上下――。

 何回か繰り返せば、あら不思議。激しい斬り合いが行われているように見えてきますね。


「き、貴様……私を愚弄する気か!」


 当の本人以外には、ね。


「しっかり剣を握って歯を食いしばっていないと。舌を噛みますよ」


 そろそろこの戦いを終わらせても良いですかね?

 そもそもこの試験って、どうすると終わりなんでしたっけ?「まいった」って言わせたらOK?


 じゃあ最後の一撃はエインスさんの木剣を避けて、首筋に向かって致命的な一撃……の寸止め。


「勝負あり、ですね。これで試験終了で良いですか?」


「……良いだろう。試験官たる私を侮辱した罪で減点だ」


 えー! そりゃないですよー!


 と思ったが、試験に受かりたいわけじゃないし、減点されても別にどうでも良いか。

 んー、しかし完勝なのに減点は納得いかないなあ。やっぱりエインスさんが俺のこと、嫌いなだけでしょ?


 あ、グループAのほかの子たちが震えちゃってるじゃん。


「ごめんね。おじさんとおば……お姉さんが大人げなく暴れちゃったりして……」


「アッシュ! さらに減点!」


 ちゃんとお姉さんって言い直したじゃないですか!

 今のは見逃して!

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