「皆様のグループは、続いて『剣術試験』です。闘技場1に移動いたします」
いや、エインスさん……。俺、いい加減帰りたいんですけど? だから何で睨んでくるの?
「途中退席は禁止です」
はい……。
説明会に参加するだけのつもりが、どうしてこうなった……。
「『ギルドの受付嬢』たるもの、冒険者を導く存在でなければなりません」
闘技場1に着くと、サブマスター・エインスさんの演説が始まってしまった。
「全員、剣を取りなさい。私に続いて素振りを100回行っていただきます。その様子を見させていただき、この後の実技試験のグループ分けを行います」
用意されていたのは、古びた木剣だった。
闘技場の脇に設置された籠に刺さっていた木剣が1人1本ずつ配られていく。
「行きわたりましたね。それでは素振りを始めます。1~!」
いや、うーん。ここにいる若い子たちは、剣なんてまともに握ったことがないだろう。
エインスさんの真似をして一生懸命素振りをしているが……まるで基本がなっていないので、はっきり言って見ていられない……。
何人かは腕に覚えがありそうな子もいるが、ほとんどの子は……って、そもそも『ギルドの受付嬢』にこの試験項目って必要なの?
「アッシュ、貴様はグループAだ」
「へいへい」
「返事は「はい」だ! いついかなる時にも礼儀正しく! 笑顔を絶やすな! それが『ギルドの受付嬢』の基本だ」
「は、はい!」
いや、俺は別に『ギルドの受付嬢』になりたいわけじゃないんだが……。
「よろしい。それでは3グループに分かれて試験を行います。グループAに選ばれた皆さんは、実戦形式で私と戦ってもらいます。ついてきなさい」
この有無も言わさない感じ、マジ苦手……。
セシリスといい、エインスさんといい、何でここの職員って超威圧的なの? 笑顔なら無茶振りしても良いわけじゃないんだぞ? それと、さっきから若干気になっているんですけど、俺に対してだけ丁寧語じゃなくなっているのは何でですかね?
グループAに振り分けられたのは、俺を含めて3人だけ。おそらく剣術経験者だけが選り分けられたんだろうな。
ちなみにグループBが多少運動神経が良さそうなグループで、グループCは……か。まあ妥当な組み分けではあると思うが……。
「アッシュ、リングに上がれ。1本勝負だ。『剣術試験』ゆえ、魔術・精霊魔法の使用は禁ずる。良いな?」
「あ、はい。俺は構わないですが……」
ほらまた命令口調……。
んー、でも疾風魔法とか、補助系の精霊魔法を使わないと、エルフ族の戦闘能力はかなり低下しそうなんだけど、逆にエインスさんのほうが大丈夫ですか?
「行くぞ! はじめ~!」
エインスさんは木剣を上段に構えたまま、一気に距離を詰めてくる。
お、意外と速い。
疾風魔法を使わなくても、この人普通に強いんだな。まあ、ギルド職員を兼ねているとはいえ、サブマスターだしな。
エインスさんの初撃を木剣の腹で受け、その後の薙ぎ払いや返し技を体捌きで躱す。
まずは反撃せずに防御に回って様子を見よう。
しかし、エインスさんの攻撃は型通りで、とくに工夫がないな。まあ、『剣術試験』だからそういうものなのかもしれないが……単調で正直つまらんな。
「どうした、アッシュ。反撃はなしか? 自慢の魔法剣なしには何もできないと見える」
エインスさんは一度俺から距離を取り、挑発するように笑った。
「じゃあお言葉に甘えて、そろそろ俺のほうからもいきますよ。攻撃して良いんですね?」
まあ、実戦形式の試験だし、お互いに斬り結ばないと点数はつけらないよな。
しかし、一撃で倒れられると困るから、多少手加減しておくとするか。
「じゃあ、お覚悟!」
左足を溜めて、ジャンプ一閃。
一気に肉薄し、エインスさんが構えた木剣に向かって上から軽めの一撃。
準備ができていなかったのか、俺の初撃を受けきれずに態勢を崩しかけたので、すかさず下から木剣を斬り上げる。
上下上下上下上下上下上下――。
何回か繰り返せば、あら不思議。激しい斬り合いが行われているように見えてきますね。
「き、貴様……私を愚弄する気か!」
当の本人以外には、ね。
「しっかり剣を握って歯を食いしばっていないと。舌を噛みますよ」
そろそろこの戦いを終わらせても良いですかね?
そもそもこの試験って、どうすると終わりなんでしたっけ?「まいった」って言わせたらOK?
じゃあ最後の一撃はエインスさんの木剣を避けて、首筋に向かって致命的な一撃……の寸止め。
「勝負あり、ですね。これで試験終了で良いですか?」
「……良いだろう。試験官たる私を侮辱した罪で減点だ」
えー! そりゃないですよー!
と思ったが、試験に受かりたいわけじゃないし、減点されても別にどうでも良いか。
んー、しかし完勝なのに減点は納得いかないなあ。やっぱりエインスさんが俺のこと、嫌いなだけでしょ?
あ、グループAのほかの子たちが震えちゃってるじゃん。
「ごめんね。おじさんとおば……お姉さんが大人げなく暴れちゃったりして……」
「アッシュ! さらに減点!」
ちゃんとお姉さんって言い直したじゃないですか!
今のは見逃して!