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「うげぇ~~………。なんだぁ、コレ?」
開かれたページに載っていた写真に、思わず声をあげてしまった。
橋の下で吐き出された声が反響しエコーする。咄嗟に出た声を塞ぐように手で押さえる嵐。周りを見渡すと幸い、誰もいなかったため安堵する。
だが、今の彼にとってそれどころではなかった。すぐに、不可思議な挿絵を確認しようと再度雑誌の中身を見ると………やはり見間違いではなかった。
開かれているページには、先ほどの男たちが、キスをしていた。
海外で挨拶をする時に使うチークキスとかではない。上手く言えないが……濃厚なのだ!
最初は、互いを笑顔で見つめ合っていた。次のページを捲ると、互いの舌を絡ませつつ口づけを交わしている。その行為自体を知らない訳ではない。
でも、それは……、あくまで〈男女間〉で愛を深めるためだと認識していたから。
だが、目の前の挿絵は二人組の男。
繰り広げられているのは、大人の情事の一部。初めて知った新しい世界に、嵐の脳がヒートしてしまう。心臓がドクリと大きく跳ね上がり、頬に血流が一点に集中し熱くなっていく。
「なんで、男同士でキスをしてんだ?意味分かんねぇ~~」
これ以上触れてはいけない世界。嵐は急いで雑誌を閉じようとする。……が、手が拒否をしていた。
(海里に似たこのお兄さん……。キスをされて気持ちよさそう……)
視界に入ってきた兄に似た大人の男性。
でも、同じ性別なのに女みたいな色気が溢れている。蜜に惹かれている蝶のように吸い寄せられていく。ふと、視点を変えると紹介文が記載されていた。
「…………新星の〈ネコ俳優〉?」
初めて知った単語だった。
(ネコって……あの動物の猫のことか?でも……、たぶん違う気がする)
一瞬、そう思った嵐。
そう……この雑誌の内容からしてみて、違う。詳細は把握できていないが、子供ながら直感でイケナイものだと察してしまった。
ここで、ネコ俳優についての説明を発見する。
「ネコ、とは……〈相手の●●●を受け入れる側の受け〉のこと……?」
肝心なところが黒く塗りつぶされていた。
(●●●、ってなんだ……?)
マジックペンで殴り塗りされたのだろう。そこだけが、筆圧が強く残っていた。肝心なところを消されてうやむやな状況になり、さらに知りたい気持ちが大きくなっていく。
でも。これ以上、境界線を踏み込んだら戻れなくなりそうな気がした嵐。
その理由は、分からない。
でも……、直感が訴えていた。
これ以上は、〈立ち入り禁止〉、━━だと。
同時に、腹の奥がムズムズと甘いくすぐったさが込みあがってきた。無意識に腹部あたりの服の裾を握り締めてしまう。
この感情は、初めて。
でも……、嫌悪感は不思議となかった。
自身の視界に入ってきた海里に似たネコ俳優から目が離せないまま、雑誌のページを捲る。すると、ネコ俳優が組みひかれていた。しかも……、胸の飾りを相手に口を含まれて善がっている姿。
ふと、視点を下へと変えた瞬間。━━━血が沸騰した。
「え?な、なんでそんなトコロに突っ込んでだ⁇」
理解できない行為。共に頭の中で過ぎった、〈相手の●●●を受け入れる側の受け〉の意味をここで理解してしまった。
思わず持っていた雑誌を落としてしまう嵐。スローモーションで落ちていく雑誌。それでも、パラパラと捲れていく挿絵たち。
相手の起立したモノを口で愛撫しているもの、ネコ俳優が相手から手淫されているもの、などの淫らな情報の津波が襲い掛かってきた。
たった数秒間の事故。なのに、この灼けるような淫写に目を反らしたいのに反らせなかった。
脳裏に流れてきたのだ。
海里との情事が━━━━━……