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(ふぅ……、やっとサッパリした)
ただいま、入浴中の嵐。
日に焼けた肌に染み込む熱めの湯。若干炎症しているのだろう。控えめな痛みと共に染み込む心地良さに噛み締めている。
そして、お湯に浮かんでいる夏蜜柑。特有の甘苦い香りが湯気と共に室内へ広がっている。
鼻腔を擽る、ビターな香り。肺に広がり、脳の疲労が和らぐのを感じた。
特に、先程の男同士が絡みあっている大人の雑誌。
(アレは、衝撃的すぎた。ーーーましてや、海里に似たお兄さんには)
リラクゼーション効果が出ている、この室内。今となっては、あの刺激的な記憶が徐々に消えかけている。
しかも、初めて一番風呂で入れている喜びが大きい。
いつもは、長男の海里から入浴して、次は次男の宇宙…という順番。
そんな兄弟ルールが出来上がり、自分の番になると少し柔らかい湯加減になっていた。
そんな物足りなさを味わっていたから、尚更優越感に浸ってしまう。
ここで、ふと頭によぎった。
「……海里が大人になったら、あんな風に綺麗になるのかな……」
消えかけていた記憶。
でも、気になってしまった。身内にそっくりなあのネコ俳優を。
挿絵から伝わってくる滑らかな色白の肌。ぽってりとした桃色の唇。その唇から熟れた苺のような紅い舌で、相手の……
なんとなく、思い出してしまった新しい記憶の一部。捨てられていた雑誌を全部目を通した訳じゃない。
最後は、手に取った雑誌の中身が刺激的過ぎて落としてしまった。けどーー、
「……まだあるかな?あの雑誌」
(……大人になった海里に、また会いたい)
本日生まれたばかりの感情。
それは、時間が経つにつれて大きくなっていく。
種だった感情が成長し、今は小さな蕾になってしまった。ーーというべきか。
無意識に、熱のある吐息が溢れる。
「もし、あったらーー……」
だが、嵐は気づかなかった。
一番風呂の主が、いつものように入ってくることを ーーーー
ーーーーキィッ……
入り口の開く音が響き渡った。
視点を変えると、湯気で視界がほぼ曇って見えないが……
「ーー嵐、なのか?」
声で分かってしまった。ーー誰なのかを。
「……どうして、俺より先に入っているんだ?おまえ」
会いたくて
欲しくて、欲しくて、狂おしい。
そこにいる。目の前にいる。
手に入れたくて、堪らない人が ーー
この感情の名前を、今でも分からないまま。
(ーーこの気持ちは、いったい何なんだ?)