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無自覚初恋〈蕾→一片開き②〉

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(ふぅ……、やっとサッパリした)



 ただいま、入浴中の嵐。

 日に焼けた肌に染み込む熱めの湯。若干炎症しているのだろう。控えめな痛みと共に染み込む心地良さに噛み締めている。

 そして、お湯に浮かんでいる夏蜜柑。特有の甘苦い香りが湯気と共に室内へ広がっている。

 鼻腔を擽る、ビターな香り。肺に広がり、脳の疲労が和らぐのを感じた。

 特に、先程の男同士が絡みあっている大人の雑誌。


(アレは、衝撃的すぎた。ーーーましてや、海里に似たお兄さんには)


 リラクゼーション効果が出ている、この室内。今となっては、あの刺激的な記憶が徐々に消えかけている。

 しかも、初めて一番風呂で入れている喜びが大きい。

 いつもは、長男の海里から入浴して、次は次男の宇宙…という順番。

 そんな兄弟ルールが出来上がり、自分の番になると少し柔らかい湯加減になっていた。

 そんな物足りなさを味わっていたから、尚更優越感に浸ってしまう。

 ここで、ふと頭によぎった。


「……海里が大人になったら、あんな風に綺麗になるのかな……」


 消えかけていた記憶。

 でも、気になってしまった。身内にそっくりなあのネコ俳優を。

 挿絵から伝わってくる滑らかな色白の肌。ぽってりとした桃色の唇。その唇から熟れた苺のような紅い舌で、相手の……


 なんとなく、思い出してしまった新しい記憶の一部。捨てられていた雑誌を全部目を通した訳じゃない。

 最後は、手に取った雑誌の中身が刺激的過ぎて落としてしまった。けどーー、




「……まだあるかな?あの雑誌」


(……大人になった海里に、また会いたい)

 本日生まれたばかりの感情。

 それは、時間が経つにつれて大きくなっていく。

 種だった感情が成長し、今は小さな蕾になってしまった。ーーというべきか。

 無意識に、熱のある吐息が溢れる。


「もし、あったらーー……」


 だが、嵐は気づかなかった。

 一番風呂の主が、いつものように入ってくることを ーーーー




ーーーーキィッ……


 入り口の開く音が響き渡った。

 視点を変えると、湯気で視界がほぼ曇って見えないが……




「ーー嵐、なのか?」



 声で分かってしまった。ーー誰なのかを。


「……どうして、俺より先に入っているんだ?おまえ」



 会いたくて

 欲しくて、欲しくて、狂おしい。


 そこにいる。目の前にいる。

 手に入れたくて、堪らない人が ーー



 この感情の名前を、今でも分からないまま。




(ーーこの気持ちは、いったい何なんだ?)



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