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初恋華〈一片開き→開花〉


◇◇◇◇◇◇


 「今日の夕方から町内のお祭りだよね?楽しみだね、海里‼」



 風呂場で逆上せた件から四年後。

 俺、神龍時 嵐は、十六歳になった。あれ以来いつもと変わらず、高校生の日常を送っている。あれ以来、変わったと言えば身長と深みのあるバス調寄りの声色くらい。

 でも幼い頃に感じた、兄に対する感情の名前は分からずのまま……。


 今日は、夏休み一週目の土曜日。晴天の午後。俺は父方の実家であるK県へ遊びに来ている。まぁ、家族皆で神龍時の本家に帰省していることだ。

 昔、うちの親父は厄除師当主である祖父に勘当されて、疎遠になった。理由は、分からないが……。

 だけど、五年前の冬。祖父がこの世から旅立った。

 原因は、ヒートショックで起きた心筋梗塞らしい。ということは、当主の席が空いたということになる。

 葬儀が終わった次の日。神龍時家の本家と分家を合わせて会議で話し合った。その結果、━━うちの親父が現当主になった。


 それ以来、長期休みには毎年ここで過ごしている。

 我が家に似た作りの本家。━━━敷地がでかい点を覗けば。初めて来たときは、迷子になった。

 それだけじゃない。錦鯉が泳いでいる池に、昔ながらの塀の高い囲い外壁。そして、庭に松が数本あって和の風情があるが……、俺からしてみたら非日常的すぎて今でも慣れないものだ。


 そんな本家の居間で、六つ子揃って夏休みの宿題をしていた時のことだった。

 四番目かつ妹の風羅がふと思い立ったように、隣に座っていた海里に話しかける。向日葵のような笑顔の妹。そんな相手に、

 「そうだな……。夕方は冷え込むから一枚上着を着て出かけた方がいい」

 と淡々とした一言のみ。透き通った落ち着きのあるテノール調の声が、室内に溶け込んでいく。

 俺と同じ目の鈍い琥珀色。一部違う点がある。お袋に似た、涼しげな切れ長の目じり。そして、ストレートの黒髪は、青竹色の艶が出ていて綺麗だった。

 腰まで伸びている滑らかな髪を紅い髪紐で首の襟足辺りを縛っている。女のように曲線美が出ている華奢な体つきは、とても同じ男とは思えないほどの色香が出ていた。


(…………色香?海里は同じ男なのに⁇)


 何で、こんなことを思ったんだ⁉俺。

 まぁ……、話を戻して。

 海里は、いつも言葉がそっけない。良い言い方をすれば、余計なこと言わない優等生の回答。

 もちろん、そんな相手に、「は~い」と返答して会話が終わる。すぐに目の前の課題へと視点を戻す。いつものやり取りに、他の兄弟たちは耳だけ傾けつつ自分たちの宿題へと集中させた。

 だが、俺の中でふと違和感が生まれた。そう、海里の返答に対してだ。

 上手く言えないが……心此処にあらずといった感じ。


 (なんだろう……?元気がないような⁇)


 この意味は、夕方の時に知ることになる。

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