毎年この時期になると、天龍神社で町内の祭りがある。
開催は、夕方の六時から始まる。
その一時間前に辿り着くと町内の人たちで、もう賑わっていた。ぱっと見た感じ、軽く百人くらい越えていそうだった。中には、市外から来ている奴もいれば、浴衣を着ている地元の奴らがちらほらといる。主に子供とカップルだけど。
目的は、屋台だろうな。今年の祭りは、他の地域の客も呼び込みたいという理由で市の予算を奮発してくれたらしい。
そのおかげか、いつも屋台の数が去年の倍。
いつも、こじんまりとした子供向けしかなかった店が大人向けも多く入っている。
定番のお好み焼きの甘辛いソースの芳ばしい香り。焼きそばのジュウ、ジュウと鉄板で野菜と共に焼かれている音色。
これだけでも、食欲をそそるのに十分だったのに、今年はさらに違った。追加に都会で流行っているキッチンカーも待機していて、いつもより賑やかになっている。主に活気があったのは……
「ねぇ~、初めてじゃない?キッチンカーの屋台なんて」
「あ、これ!都内で見たケバブの店じゃない!」
「マジか!ワインの屋台もあるじゃねぇかッ‼」
━━町内の大人たちだ。都会では当たり前の光景だが、この田舎にとっては初めての店と集客数に圧倒されてしまっているだろう。それは、俺と兄弟たちもそうだった。
「うわぁー!どこから、食べようかな?焼きそば?五平餅⁇それとも……」
このメンバーで一番はしゃいでいたのは、妹の風羅だった。
目の前に繰り広げられている煌びやかな屋台たち。定番の名物以外にも、ほのかに甘く香るリンゴ飴、昔ながらの平べったいクレープに甘じょっぱい香りがする、じゃがバターなどがある。
「ねぇ、ねぇ、見て!皆。コレ凄いよぉッ‼」
突然、歓喜の声を上げた六つ子の五番目、くもり。
そしてボリューム感満点のかき氷。この田舎では、子供向けの色付きシロップに老人向けの抹茶、カンロが定番。だが……くもりが見つけたかき氷屋は、違った。
客が受け取ったかき氷の上には、シロップだけではなかったからだ。一言で言うなら瑞々しい宝石が散りばめられていた。
弟が指で差しながら興奮している姿に周りにいた大人たちは、「あの女の子、可愛い~!」、「恰好はボーイッシュだけど、顔は可愛いよな」という会話。
いつも耳にしているが……くもりは、男だ。
そんな会話に慣れていたが、内心うんざりしている俺。気づかれないように、静かにため息を吐き出す。