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初恋華〈一片開き→開花〉④


 またしても、鶴の一声が会話を遮る。

 その声の主へ視点を変えると、海里だった。しかも、険しい表情で。

 (珍しい……。会話している最中に止めるなんて)

 それは、俺だけじゃなくて兄弟たちもだったようで。普段、聞き手側が多い海里。相手の会話を遮ることなんてしない。

 それは、同じように思った皆。不思議そうに海里へと視線を向ける。そんな長男の様子に、飄々と仕切っていた宇宙も察したようで口を閉ざした。


 「風羅、そろそろ行かないと。時間が……」

 「え……、何が?」

 「いや……、だから」

 「そんなことより、海里はかき氷どれにする?」

 「いや、俺はいい。━━そうじゃなくて、それより支度しないと」

 「…………?」

 「〈巫女舞〉に出るんだろ!」

 「……あ、忘れてた‼」


 ここで、海里が会話を中断させた意味が分かった。それにしても……

 (相変わらず言葉が足りねぇんだよな……。コイツ)

 そう、海里は口下手野郎だ。聞き上手はトーク上手と思うヤツはいるだろう。それは、一部除いてだ。コイツは、口下手で誤解されることが多い。


 先日も、学校で隣のクラスの女子に告られた時もそうだった。

 たぶん、「ごめん。今は、恋愛に興味ない」と伝えて断ろうとしたんだろう。緊張していたのか……主旨が抜けて


「ごめん。(今は、恋愛に)興味ない」


 と返答した。もちろん、相手には誤解されてしまった。そして、

 「はぁ⁉『ごめん。興味ない』って……断るにしても言い方ってもんがあるでしょうが‼」と涙で罵倒され、ビンタをされてしまった。最後には、

「アンタみたいな女を見下す冷血野郎は、こっちから願い下げよ‼クソがッ‼」

 誤解されたまま、暴言吐かれて終了……。



 それ以来、自己主張を控えている海里。

 (今思えば、不器用というか世渡りが下手くそなんだよなぁ……。コイツ)

 一つ屋根の下で生まれて観てきたけど、生き方が不器用すぎる。

 しかも傷付きやすい繊細な心だし。たぶん、大人になったら一人で生きることに苦労するだろうな。本当は、人一倍努力家で優しいのに。

 (なんで海里ばっか、こんなに苦労しなきゃいけないんだ……?)



「やっぱコイツを守れるのは、俺しか━━……」



 ここで、俺の中で疑問が生まれる。

(ん?今……、何を言葉にしようとした?)

 無意識に呟いてしまった言葉。何を思って口にしたのか分からない。

でも……、海里のことを考えたら無性に守りたくなってしまった。ほっとけないというか、一人にしちゃいけないヤツだとか……、色んな感情がぶわって込みあがってきて。それで……、


「━━━それじゃ、みんな。巫女舞の衣装に着替えなきゃいけないから行くね」


 思考の海に沈んでいた意識が、一気に現実へと浮上する。

 妹の声に我に返った俺は、やり取りが分からずのまま。だが、これから巫女舞に参加する準備をする、ということだけは察した。

 ここで、別のことで疑問が生まれる。


「なぁ…………、何で海里・・も一緒に行こうとしてんだ?」

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