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初恋華〈一片開き→開花 7〉


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 「いやぁ~、巫女舞の披露までに間に合って良かったね」


 今、夕方六時五十分。

 俺たち四人は、祭壇前の最前列の席にやっと座ることができた。ここまで来るのに、屋台から客たちの間をかき分けて来られたのだ。

 親父が、今回は俺たちに巫女舞を見せたくてこの有料席を予約してくれたらしい。

 (たぶん……、風羅の晴れ舞台だからこの席を買ったんだろうな)

 ふと、社の裏山を見ると。沈みかけている夕日が、一日の終わりを告げようとしていた。

 此処の神社の空気が澄んでいるのか、夕日から紺色の上空が綺麗なグラデーションができ上がっている。


 俺の視界に入ってきた景色が、あの時と似ていた。

 四年前に橋の下で見つけたあの本。その中に載っていた……、海里に似たAV俳優。風呂場の件以来、その本が気になって翌日の学校の帰り道にまたあの場所へ行った。そして今は、俺の部屋に隠してある。

 (それにしても……まさか、ここで思い出すとは……)

 今でも、何で拾ってきたのか……分からない。

 でも、他のヤツに海里に似た写真を見られたくなくて。拾われたくないって、と気持ちに駆り立てられて……。


 ~♪、~♬、~♪


 ふと、耳に入ってきた音楽に、思考の時間が終わりを告げる。俯いていた顔を上げると祭壇に二人の巫女服を着た女がいた。

 一人は、妹の風羅。

 もう一人は、俺と同じくらいの背丈のスレンダー美人。目尻のみ朱色の化粧をしている為か、妹と違った色気が際立っている。ここで、違和感が生まれた。


 (あれ……、あの人。首に包帯を巻いている。怪我をしたのか?)


 それだけじゃない、淡い純白色の巫女服を着ていた事も。いつもと違う。なんというか、袖に紅い龍の刺繍が……


 「あれって……、千早って服じゃないかな?確か……神楽を舞う時に普段の白衣の上に羽織るものだったような」


 ここで、左隣の宇宙がぽつりと呟く。

 タイミングの良い返答に、一瞬ドキリと心臓が跳ね上がってしまう俺。何も悪さしてないのに恐る恐る、隣へと顔を向けるとヤツはにんまりとしていた。まるで、ドッキリ大成功と言わんばかりに。

 無言でジト目すると、宇宙は察したようで

 「だって、嵐が知りたそうな顔してから教えてやったんだよ?僕は。感謝の気持ちで今日のお小遣いの一部を渡しても罰は当たらないよ」

 と、理不尽クレームを言ってくる始末。俺さ、教えて欲しいとは一言も言ってないのに……。


 「あのさぁ~~~~━━━━、そういうところだよ?嵐。前から言おうと思ってたけ━━……」

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