「いや……っていうかさ、ここってプレースメ……あれ、なんだっけ? まぁえっと、プレース何とかって言う場所で合ってる? アタシ、仕事の登録に来たんだけど」
タニアは気圧されていることを男に悟られないよう、わざと気怠げな調子で答える。大男はそんなタニアの態度にも気分を害した様子を見せずに腕組みしながら頷いた。
「ああそうだ。ここはプレースメントセンター。仕事の登録をする場所で間違いない」
大男の答えにタニアは胸をなで下ろす。無事にたどり着けたようだ。これでギルド嬢になれる。安堵した様子を見せるタニアに、大男はどこが可笑しそうに尋ねてくる。
「どうやら嬢ちゃんは仕事の登録は初めてのようだな。どんな仕事を探しているんだ? 個性的な格好をしているところを見ると、服飾関係の仕事に興味がある感じか?」
何故だか会話を続けようとする大男は、興味深げにタニアのことをジロジロと見る。
どうしよう。厄介な輩に絡まれてしまったかも知れない。
タニアは胸の内で警戒を強める。屈強そうなこの大男には腕力では到底敵わないだろう。安全にこの場を切り抜けるには、素知らぬ顔でやり過ごすのが得策だ。そう考えたタニアは何気ない素振りでカウンターの方へ歩みだした。当然のように大男もついて来る。
「まあ、お洒落は好きだけどね。でもアタシ、針仕事はあまり得意じゃないんだ。だから服飾関係の仕事は考えてないよ」
「へぇー、そうか。そうすると他には……」
大男はぶつぶつと言いながら、尚もタニアのことをジロジロと観察してくる。タニアは大男の不躾な視線に苛立ちを覚えた。だが、その苛立ちを悟られないように、平静を装う。喧嘩になっても勝てっこないぞ。そう自分に言い聞かせる。そして、まだ何事かをつぶやいている大男に言う。
「アタシのことなんかよりもさ、オジサンは自分の心配しなくていいの?」
カウンターへ伸びる行列の最後尾に並びながらタニアは大男を見やる。大男は「オジサン」という響きに何やら複雑な表情を浮かべた。
「オジ……まぁ、嬢ちゃんくらいの歳の奴らからしたら、もうオジサンと呼ばれても仕方のない歳か」
ガックリと肩を落とした大男の姿にタニアは内心でほくそ笑む。これでこの大男から解放されそうだ。
「オジサンもここにいるってことは仕事の登録に来たんでしょ? もう見つかったの? ほら、あっちの貼り紙。あれ、求人じゃない? 早く見に行かないといい仕事、他の人に取られちゃうよ」