「ねぇ」
「ん?」
「あと10ヶ月、なにがしたい?」
「ん〜、やりたいことめちゃくちゃあるけど、とりあえずまずは引っ越しかなぁ」
「え、もしかしてうちのマンション?」
「そ。そんでさ、櫂と一緒に住みたいなと思ってて」
「うわ最高! そうしよ、絶対そうしよ! 俺の部屋を生活用にして、幸助くんの部屋は作業部屋兼、遊び部屋!」
「はは、すっげー贅沢!」
「朝までゲームして、眠くなったら俺の部屋に帰って寝て、起きたらご飯作って、今日は何しようかって話しながらコーヒー飲んで」
「でももう夕方で、今からじゃどこも行けねーしって事でダラダラ映画見て、寝落ちて、夜中に慌てて仕事したりして?」
「やるやる〜! 何と言っても俺ん家、こたつあるからね! 寝落ち率めっちゃ高いよ!」
「自慢げに言うことか? それ。じゃあこれから俺は寝落ちた櫂を起こす係ってわけだ」
「こたつの誘惑に勝てるつもり? ミイラとりがミイラになる未来が見えるなぁ」
「……それは俺も見える!」
「あははは! 幸助くんと暮らしたら毎日笑い疲れそうだなぁ。あー楽しみ!」
「来週の名古屋公演終わったらすぐ引っ越すから、もうちょい待っててな」
「うん!」
「仕事の合間にだけど、いろんなことしようぜ。冬はイベント事も色々あるしさ」
「……しまった、ついいつもの癖でクリスマスイブに仕事入れちゃった……折角二人で過ごせるクリスマスなのに……」
「もしかして特番?」
「うん……イブの夜の生放送……」
「さっすが
「えっ! 特番出る!?」
「へっへっへ。ドラマタイアップってこういうところに恩恵があんだよなぁ」
「うわーっ! 同じ番組に出るってすごくない!? やったー! 終わったらそのまま飲みに行っちゃおう!」
「だな!」
「あれ、ってことはもしかして年末年始も……」
「おう。カウントダウンスペシャルってやつ? 呼ばれちゃった」
「年越しも一緒じゃん! よかったぁ〜カウントダウンライブの方行かなくて!」
「収録終わったらそのまま初詣だな!」
「いいね〜! 最高の年明け!」
「あと休みの予定もすり合わせておこうぜ。俺、櫂とスノボ行きたい」
「滑れるの!?」
「滑れなきゃ誘ったりしねぇ!」
「すごい! 教えて! 俺やったことない!」
「任しとけ。温泉つきのいいとこ知ってっからさ」
「温泉!」
「年明けアルバム出たら落ち着くはずだから、2月半ばぐらいまでには行けたらいいなぁ」
「2月バレンタインスノボ温泉! ただでさえ日数少ないのにこれは忙しいぞ! 待ってて、予定こじあけるね!」
「はは、大興奮じゃん。顔真っ赤」
「これが興奮せずにいられるかっつーの!」
「春は? やっぱ花見?」
「そりゃあ欠かせないよね〜! 桜の下を二人で歩きたい」
「連休からフェスはじまるし、俺らはその頃またツアーだけど、その分4月はいっぱい休みとるよ」
「うん。俺も合わせる!」
「6月は〜、雨だからゲーム三昧!」
「やった〜! おうちでごろごろ!」
「そんで寝落ちだ」
「へへへ、まぁそうなりますね」
「しゃーねぇなぁ。お姫様だっこでベッドまで運んでやるよ」
「え、キモいねそれ」
「あれ? 予想外に冷たい」
「ふふ。寝落ちても起こしてくれる人がいるっていいなぁ。二人で暮らすって、そういうことだもんね」
「おう。朝から晩まで一緒だし、屁ぇこいてもすぐバレるぞ」
「あ、僕はかわいいからそういうのはないです」
「やかましいわ」
「へへへ。……でも、そうだね。おはようからおやすみまで一緒だもんね」
「そうだよ」
「家を出る時は、いってきますといってらっしゃい。帰ったら、ただいまとおかえり、……」
「……櫂、どうした?」
「ねぇ、一個だけルール決めていい?」
「ルール?」
「そう。あのね、俺たちの間で『さよなら』って言葉は使わないようにしたい」
「……うん」
「そもそも一緒に暮らしてたら、普通に使わないんだけどね。でもほら、俺たちには確実に別れの時が来るし」
「……そうだな。『さよなら』より『またな』の方が、なんかいいよな」
「あるかもしれない次のループで、また会おう、ってね」
「ループは絶対に止めるけどな」
「止まったかどうか、幸助くんには確かめようがないでしょ?」
「……それは、そうだけどさ……」
「あ、落ち込まないで。ループは止まるよ、きっと。幸助くんがこんなに意気込んでくれてるし、俺も絶対幸せになろうって思ってる。でも、ループが止まったかどうかわからないなら、俺がいなくなったあとの世界で『もしかしたらまた二人は出会っているかも』って思えた方が希望が残るかなって」
「……来世でまた会おう、みたいなもんか」
「そうそう。これも小さな幸せだと思うんだよ。可能性が寂しさを少し誤魔化してくれる。いつかまた会えるかもしれないっていう希望が、きっと幸助くんを支えてくれるから」
「……うん。わかった。『さよなら』は言わない。最後の瞬間まで」
「よし決まり!」
「なぁ、櫂」
「ん?」
「10ヶ月なんてあっという間だぜ」
「そうだねぇ」
「寒さが増して、暖かくなって、花粉が舞って、梅雨が開けたら、もう夏だ」
「そうだねぇ」
「……夏が来たら、どうしようかなぁ」
「うん」
「俺どうなっちゃってるかな。なんかもう、ずっと櫂のそばから離れられなくなったりすんのかな」
「ふふ。それはそれでかわいいかも」
「笑える状況じゃねぇかもよ。大の男が子供みたいに泣きじゃくりながらずっとTシャツの裾握ってついてくるとか」
「あははは! 地獄絵図!」
「でもマジでそうなりそうなんだよなぁ……俺ちゃんと、耐えられんのかな」
「……それは、俺も同じだから」
「……いつか夏は来る」
「うん」
「その時俺たちは、どうしてるかなぁ」
「うん」
「どうやって別れるんだろう」
「うん」
「どうしたら、ちゃんと幸せに別れられるんだろう」
「それも全部、これから二人で、たくさん考えようよ」
「……そうだよな。今からビビっててもしゃーねーよな!」
大丈夫だよ、幸助くん。今度はきっと、大丈夫。
最後の瞬間まで一緒に居てくれれば、俺は心から幸せだから。