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第11談 舞台演劇

 私の同世代の知人で、小劇団の座長を務めるTさん(仮名男性)から聞いた話です。


 彼は、コロナ過になる前は、年に数回ほど都内の小劇場で演劇の公演を行っていました。


 コロナ禍以前のある年の夏。都内K駅の近辺にある劇場で、Tさんの劇団による芝居が公演されることが決定しました。


 その物語の内容は、とある大富豪の屋敷を舞台にしたミステリー作品で、主人公の女の子と相棒の男の子が、その謎に挑んでいくというものです。


 公演は、土日を含んだ3日間で行われたのですが、幸運なことに全公演がほぼ満席に近いという盛況ぶりだったそうです。


 しかし、2


 ステージ上には、大富豪の豪邸という設定のため、2階建ての邸内を模したセットが組まれていました。


 主人公の女の子の相棒役を演じたUさんが、本番中にセット内の階段を登っている途中で、突然足を止めたまま動かなくなってしまったそうです。


 台本上では、セット内の2階部分にいる主人公の女の子の部屋に、Uさんが突入するという展開だったため、彼が止まったままでは物語が進みません。


 そんな状況なのに、


 その頃になると、観客たちも異変を感じたので、劇場内が騒がしくなり始めた直後、Uさんは駆け足で階段を登り始め、主人公の待機してる部屋に入ったので、かろうじて劇は進行しました。


 公演終了後、Tさんは「何だあの様は!あと少しで公演がメチャクチャになるところだったんだぞ!やる気あんのか!!」と、Uさんを𠮟りつけたそうです。


 しかし、彼は言い訳せずに「すいません」と謝り続けるだけでした。


 その後、全公演は終了し、その日の夜中、会場近くの居酒屋でキャスト・スタッフによる打ち上げの飲み会が開催されました。



 公演を終えた解放感から、Tさんを始め、キャスト、スタッフの方々は酒を飲み盛り上がっていたそうですが、ただ1人Uさんだけが〝何か思い詰めた表情〟でビールを飲み続けていたそうです。


 やがて、Uさんは席から立上り「あの!みんな聞いてくれないか?」と、大声で店内のキャストや、スタッフのメンバーに言ったそうです。


 突然の事なので、参加メンバーたちは、一斉にUさんに注目しました。

 彼は、自分に注目する全員に向けて話を続けます。


 「2日目の夜の公演中、俺は階段の途中で止まってたことなんだけど、Tさんには凄く怒られたけど、あれは〝動かなかった〟んじゃなくて〝動けなかった〟んだよ!」


 「それは、どういう意味だよ?」


 すかさず、Tさんが質問しました。


 「あの時、俺は台本通りにセット内の階段を登っている途中で、に足首を突然掴まれて動けなくなったんですよ!」


 「そんなことあるわけないだろう!それに本番中、君の足首を掴んでる手なんて見えなかったぞ!くだらない嘘を言って、自分のミスを誤魔化すのは止めろ!」と、TさんはUさんの告白に対して、反論したそうです。


 「こんな話は、誰も信じてくれないと思ってたし、それにまだ〝!コレ見てくださいよ!!」

 そう言ったUさんは、自身のズボンの裾を上げて、その足首をUさんたちに見せました。

 そこには、


 その直後、Uさんは「Tさん!俺、もうあの小屋で芝居するのは嫌です!!」と叫ぶと同時に、居酒屋から逃げるように出ていったそうです。



 後日、Tさんが仲の良かった劇場スタッフ(打ち上げ不参加)の方に、Uさんの話をしました。


 「またかよ……」


 すると、そのスタッフは小声で呟きました。


 「今の言葉は、どういう意味ですか?」


 「あ、いや、Tちゃんだから話すけどさ、この劇場って、たまにらしいんだよ。前も別の劇団の公演の時に、お客さんから『舞台の端にが立ってた時があって気になって芝居に集中出来ませんでした』ってクレームがあったんだ。でも、1んで、『それは何かの間違いです』って説明したけど、お客さんたちは『そんなはずない。確か女の人がいました』って言うんだよ。それも複数のお客さんが同じ事を言ってた事があってさ……」


 ……その劇場は、コロナ過の影響で、現在は取り壊されてしまったそうです。


 Uさんや、当時の劇場スタッフの言葉が正しければ、その劇場の舞台には〝この世の者ではない何か〟が舞い踊っていたのでしょうか??


 ひょっとしたら、劇場が無くなった今でも……!?





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