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第16談 幻の町と店

 私の知人から紹介してもらった友人であるNさん(仮名40代男性)から取材した話です。


 彼は、数年前に仕事の関係で△県の某市へ引っ越したそうです。


 その町は、全体的に古風な雰囲気と風情がある所とだけ言っておきます。


 職場が近いため自転車で通勤していたのですが、そんな町並みを眺めながら走行するのが毎日の密かな楽しみだったそうです。


 ある週末のことです。Nさんは休日出勤を命じられましたが、幸いにも午前中で仕事が終わりました。


 特に午後は予定も無かったので町の探索も兼ねて、いつもと違う道を通って帰ることにしました。


 ひたすら、自分が通ったことがない方へ自転車を走らせていく内に、彼は自分がどこにいるのか分からなくなってしまいました。


 (ここはどの辺りなんだ?もしかして町から離れちゃったのか?)


 と思い、近くの電柱の住所を確認しましたが、どうやら町内のようです。


 そんな彼の傍を下校中なのか、ランドセルを背負った小学生の男子数人が通り過ぎたのですが、彼らは


 「今日、お前の家でファミコンやろうぜ!」


 「ドラクエ3どこまで進んだの?」


 という会話をしていたそうです。


 それを聞いたNさんは


 (今時の子供はニンテンドーSwitchしかやらないかと思ってたけど、まだファミコンやってる子もいるんだなぁ)


 彼らの会話を聞いたNさんは、懐かしいやら不思議な気分になったそうです。


 それから、10分ほど自転車を走らせたのですが、一向に見慣れた場所に出られません。


 それどころか、


 



 さすがに彼も少々不安を感じ始めたので、気持ちを落ち着かせるために周囲を見渡した所、昔ながらの駄菓子屋が目に入りました。


 好奇心から、店内に入った彼は、幼少期に観て以来、今でも大好きな『聖×士星矢』に登場する黄金聖×士の玩具が置かれているのを見つけました。


 この玩具は、人形に金メッキで塗装された金属製の鎧パーツを装着させることによって、劇中のキャラクターを再現できるのがセールスポイントであり、幼い頃とても欲しかったのですが、親に買ってもらえなかったという思い出深い商品でした。


 そこで彼は、これを買って幼い頃の夢を叶えてやろうと思ったそうです。


 「すいません!このオモチャの中を見せてもらって良いですか?」


 彼は、店番をしていたお婆ちゃんに、そう尋ねました。


 「どうぞ!どうぞ!」


 お婆ちゃんは、人の良さそうな笑顔を浮かべて返事してくれたので、彼は遠慮なく箱を開けて中の状態を確認することにしました。箱の内部の金属製のパーツは、新品同様に眩いくらいの黄金色に輝いてました。


 「すいません!これください!」


 中身を見た瞬間、彼は思わずお婆ちゃんに、そう言いました。


 「はいはい!2500円になりますよ」


 彼女は相変わらずニコニコしながら答えたので、Nさんは財布から野口英世の1000円札を3枚出して渡しました。


「お兄ちゃん、それタダで良いよ。


 受け取った紙幣を返した後、お婆ちゃんは先ほどまでの人が良さそうな表情とは一転して、どこか怯えてるような表情で、彼に言いました。


 「えっ?タダで良いんですか?」


 彼女の言葉の意味がすぐには理解出来なかった彼は再確認しました。


「あ、ああ。今日はタダで良いから!これ以上、おかしなマネするのなら、警察呼ぶよ!早く帰っておくれ!!」


 ……もはや、Nさんが店に入った直後のお婆ちゃんとは別人のような顔つきだったそうです。明らかにだったそうです


「あ、ありがとうございます!それじゃまた来ます!」


 Nさんは(これ以上いるとヤバい!)と思い、逃げるように店から出ました。


 反射的に玩具を持って店を出てきた事に気が付いたのですが、先ほどのお婆ちゃんの顔と言葉を思い出すと、再び戻る気にはなれなかったそうです。


 ふと、空を見上げると夕暮れ時が迫っているようでしたので、彼は再び家を目指して自転車を漕ぎ始めました。


 それから、1~2時間ほどが経過しましたが、やはり自分の見た事のある風景には出会えません。


 すでに日は落ちており、周囲は暗闇に包まれたこともあり、彼は内心焦っていたそうです。


 そもそも、56辿



 そこで、彼は無我夢中で、自分が今まで通ってきた道を記憶の限り逆戻りすることにしました。


 それから、どれくらいの時間が経ったかは覚えていないそうですが、いつの間にか自宅の近所に辿り着いていたそうです。


 無事に家に帰れた彼は、ようやく平静さを取り戻し、今日一日の出来事を振り返ったのですが、原因は分からずじまいでした。


 彼は気を取り直すため、例の駄菓子屋で貰った聖×士星矢の玩具を開封したたのですが、その直後、有り得ない光景を目撃しました。


 なぜなら、!それはまるで、何十年もの時間が経ったような状態だったそうです。


 ……彼は、今日の出来事は(俺は、あの時子供の頃に過ごしていた昭和時代の世界に迷い込んでしまったんじゃないか?)という考えに辿り着きました。


 確かにそう考えると、通りすがりの小学生達の会話や、妙に古臭い町並み、そして現在の紙幣を見て表情を曇らせた駄菓子屋のお婆ちゃんの対応も辻褄が合います。


 彼女は、Nさんが渡した野口英世の1000円札を〝偽札〟と思ったのでしょう。


 彼自身、最初はその考えを(バカバカしい!そんなことあるもんか!)と思っていたのですが、手元にある玩具の劣化具合を目の当たりにすると、その結論以外に考えられなかったそうです。



 ここから先は私の見解になりますが、Nさんが体験したのは一種の〝神隠し〟のような超常現象だったのでは?と思います。


 過去に〝常識的な理由では説明出来ない行方不明事件〟というのは存在し、世間を騒がせました。


 例えば、有名な所で言うと1872年にポルトガル沖で漂流していたでしょうか?


 ……なぜか船内には湯気を立てたままのコーヒーなどが置いてあり、発見される直前まで人がいた形跡があったと言います。


 近年で有名なのは、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)で話題になった〝はすみ(葉純)〟さんが、いつもの電車に乗っていたのに全く知らない無人駅の〝きさらぎ駅〟に迷い込んでしまい、そのまま行方不明になった話などもあります。


 Nさんの体験談は、これらの話と類似した現象に遭遇してしまったと、私は考えます。


 幸運だったのは、彼がこの時代の世界に戻ってこれたということでしょうか?


 もしかすると、昔ながらの面影を残してる街には、


 皆様も、そういう場所を訪れた際はくれぐれもお気をつけくださいませ!



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