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第18談 夜回り

 コロナ禍の頃、小学生時代の同級生だった安藤君(仮名)とSNSで数十年ぶりに再会した私は、後日2人でオンライン飲み会をしました。


 最初は、昔話に花を咲かせていたのですが、私がオカルト好きという事を話したら、自分が小学生時代に体験したという話を聞かせてくれました。


※小学生の頃の私は、オカルトにほとんど興味はありませんでした。


 彼の住んでいた所では、毎年1~2月になると町内会主催で防火対策として、平日の夜に‶夜回〟りを行っていたそうです。


 時間帯は21時から開始で、小学5年生以上であれば児童も参加可能というルールだったそうです。


 5年生になった安藤君は、仲の良い近所の友達数人も参加するので、彼らと会うことを目当てに顔を出していたそうです。


 夜回りは、大人達が一定間隔で拍子木を鳴らしながら、全員で「火の用心!」と叫び、町内を一周したら解散という流れでした。


 安藤君は夜に友人達と会えるというのが楽しくて、基本的には毎日参加していたそうです。


その内、安藤君は妙なことに気がつきました。


それは、



 (偶然かな?)



 最初は、そう思ってたのですが、毎回空き家周辺になると彼らは黙ってしまったそうです。


 (どうして、あの家の近くに行くと大人達は喋らなくなるんだ?)


 彼は不思議に思いました。


 「火の用心!!」


 そんなある日の夜回りの時、安藤君は例の空き家に近づくと大声で、そう叫びました。


「バカヤロウ!!お前、何勝手な事をしてんだ!!」


すると、夜回り隊のリーダーを務めていた町内会長の男性が、物凄い剣幕で彼を怒鳴りました。


「今日はもうお終いだ! みんな帰りなさい!」


 別の男性がそう言って、その日の夜回りは終了となったそうです。


 参加者の子供たちも、その場で帰宅することなりました。


 「話があるから、君は私の家に来なさい」


しかし、安藤君だけは町内会長に呼び止められたのです。


 「さっきは怒鳴って悪かったな」


自宅に着くなり、会長はそう言いました。


 「僕も勝手な事をしてごめんなさい」


少しホッとした安藤君は町内会長に謝罪しました。 


 「あの家の前で声を出してはいけない理由があるんだよ」


会長は煙草に火を点けると、彼に話を始めました。


 「あの空き家にはな、7~8年前までは、ある一家が暮らしていたんだ。その家の一人息子は、君らと同じように夜回りに参加していたんだが、元々体が弱い子でな。ある年、病気になって亡くなってしまったんだよ。2、 それであの家は、あんな状態になってるのさ」


 そこまで話し終えた町内会長は、煙を大きく吐き出した後、続きを

話し始めました。


 「……翌年の夜回りの時だ。いつものようにあの家の近くで拍子木を鳴らしてたら、亡くなった一人息子と仲の良かった子が『! 。ワシらは『見間違いだよ』と言って相手にしなかったが、それから3日後くらいに、幽霊を見たと騒いでいた子が、交通事故に遭って大怪我をしたんだ」


 「え……」


 そこまで話を聞いた安藤君は怖くなってしまい、思わず声を出してしまいました。


「その後の話なんだが、を通った時『おーい! おーい! 入れてよー!』という声が聞こえたと言ってきた子がいたが、その子も数日後に、学校の2階の窓から転落して入院したという事故が続いたんだ。町内会の中には『あの家の亡くなった一人息子が夜回りに参加してる子供達を妬んで、あんな事をしでかしたのかもしれん』と言い出す人も出てきたんだよ」


 そこまで話した町内会長は灰皿に煙草を押し付けて火を消しました。



「そのため、ワシらは、あの家を回る時には亡くなった一人息子を刺激しないように黙って回るようにしていたんだ。さあ、遅いからもう帰りなさい」



 会長の話を聞いた安藤君は、言われた通り帰宅しました。


 その翌日の放課後、彼は自転車で塾へ向かっていました。


 調そうです。


 幸い手足に数カ所ほど擦り傷が出来たくらいで済んだそうですが、昨夜聞いた会長の話を思い出し、痛みよりも恐怖を感じたと彼は語ってくれました。


 そして、その日の夜から安藤君は夜回りに参加することを止めてしまったそうです。


 病気で亡くなった少年の気持ちを考えると、切なさを感じさせられる話でした。

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