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第21談 児童館の開かずの間

 私は20代の頃、某ファミレスでバイトをしてたのですが、同僚にT・H(仮名)さんという同世代の女性がいました。


 彼女は、当時交際していた恋人と結婚する事になり、お店を退職してしまいました。


 それから、彼女とは随分長い間疎遠になっていたのですが、同じ店舗で共通の先輩の結婚式で久方ぶりに再会しました。


 その2次会会場である居酒屋で、たまたま私とT・Hさんは隣の席になりました。


 最初はお互い昔話をしていたのですが、私が怪異体験談を蒐集してると言った途端、彼女の顔付きが変わりました。


  「それじゃ、ひらやま君だから話してあげるけど、こんな話があってさ……」



 前置きが長くなりましたが、今回のお話は専業主婦であるT・Hさんから聞いた話となります。


 彼女には小学校4年生の息子さんであるR君(仮名)がいます。


 彼は小学校の授業が終わると、 仲の良い友人と近所の児童館に遊びに行くのが半ば日課になっていたそうです。



 その児童館は3階建てであり、2階にはアスレチック施設あったりして子供にとっては遊び甲斐のある施設であると、彼女は話してくれました。


しかし、その3


 T・Hさん自身も見たことがありますが、子供達の遊び場には似つかわしくない異様な雰囲気を醸し出していたとの事です。


 (あのドア、何であんな風になってるんだろう?) 


 R君は、その扉に対しては子供特有の好奇心で(怖い)よりも(不思議)という気持の方が強かったそうです。  


 さて、この扉……ここからは〝〟と書かせてください。


 児童館に通う子供達の間では、開かずの間についての〝怖い噂話〟まで存在していたそうです。


 それは、夕暮れ時に子供が、開かずの間の前で1人でいると部屋の中から、


 「おーい!おーい!開けてよー!一緒にずっと遊ぼうよー!」


 という子供の呼ぶ声がする。言うとおりに扉を開けた子は、二度と帰ってこれない……という内容でした。


 ある日の夕暮れ時、いつものように児童館で遊んでいたR君は、たまたま〝開かずの間〟の前に来てしまいました。


 


 たまたま一緒に遊んでいた友人達が塾などの習い事があるため全員先に帰ってしまったので、 1人で遊んでいた彼は退屈しのぎも兼ねて、開かずの間に内緒で入ることにしたそうです。


 勝手に忍び込んだことがバレて、職員に怒られるのを恐れたR君は、電気を消したまま開かずの間の室内を見渡しました。


 窓が全く無い部屋なので、最初は何も見えませんでした。


 しかし、目が慣れてくると、徐々に室内の様子が見えてくるようになりました。


 普段使わない椅子やテーブルなどが所狭しと置いてあったので、どうやらそれらを保管しておく倉庫のような部屋だとR君は思ったそうです。


 室内の奥まで探索しましたが、特に自分が期待していたような物が見当たらなかったため、部屋を出ようとしました。


 「もういいよー!」


その瞬間、開かずの間内に子供の声が響き渡ったそうです。


 予期せぬ出来事に、金縛りに遭ったかのように身体が硬直してしまったR君が足元を見ると、56


その子は、R君の顔を見ると〝ニターッ〟と不気味に笑ったそうです。


それを見た直後、彼は恐怖のあまり意識を失ってしまいました。


……R君が、目を覚ました時には、児童館の職員や母親のT・Hさんが心配そうに彼の顔を覗き込んでいたそうです。


 T・Hさんの話によれば、職員の女性が館内の見回りをしてたら、開かずの間の鎖が解かれて扉が僅かに開いていたのを目撃しました。


 彼女が恐る恐る室内に入ると、気絶してるR君を見つけたので、慌てて連れ出してT・Hさんに連絡をしたとのことです。


 ちなみに、彼女の話によれば発見当時に室内にいたのはR君だけだったそうです。



目覚めた直後、R君は児童館の館長を始めとする職員達に無断で開かずの間に立ち入ったことを強く叱られました。



そして、一通りお叱りが終わった後に、館長がR君とT・Hさんに開かずの間の真相を話してくれたそうです。


 彼の話によれば10年くらい前までは、開かずの間は〝物置〟として普通に使用していたそうです。


しかし、その部屋で無断で隠れんぼをしていた小学1年生の男児がいたそうなのですが、不運にも積荷が崩れ落ち、彼はその下敷きとなって亡くなってしまいました……。


 それから間も無くして、室内で作業をしている職員達が亡くなった男児と思わしき声を聞いたり、誰かの視線を感じるという出来事が相次いだそうです。


 そのため、職員達は『物置には、あの男の子の亡霊が出るから入りたくない!』と館長に抗議をしたそうです。


 彼は〝同じような事故を避ける〟という名目で、物置のドアノブを鎖で縛って児童が勝手に入れないような処置を施しました。


 これが開かずの間が誕生した秘話となります。


 「あの部屋の鎖が無くて、勝手に入ってしまいました。ごめんなさい」  


 R君は帰り際、館長に謝ったそうです。


 彼の言葉を聞いた館長は、その場にいた職員全員に


 「今日、あの部屋に入って戸締まりしなかった人いるのか?」


……と問いましたが、職員の誰も開かずの間には近寄っていないということでした。 


 扉を縛った鎖に掛けられた南京錠の鍵は児童館で管理しているため、他の児童がイタズラで南京錠を開けて鎖を解いたということも考えられません。


あの日、



 また、これは話を聞いた私の見解なのですが、


 昔から、逢魔が時には魔物(物の怪)と遭遇するという言い伝えもあります。



もしかすると、この時間帯の開かずの間には、寂しさのあまり誰か友達が欲しい男児の霊が出没するのかもしれません......。


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