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第24談 リモート会議

 皆様も記憶に新しい事と思いますが、新型コロナウイルスが発生して当時、感染症対策の新たな働き方としてリモートワークが導入されました。


今回、私が取材した大手企業の営業部に勤務する若本雄二さん (仮名50代)も、コロナ禍当時は在宅勤務だったそうです。


 若本さんが新しく担当することになった取引先の会社も在宅ワークを導入していたため、窓口担当者の末松桂子さん(仮名年齢不詳)とは、基本的にお互いの自宅からリモート会議で打ち合わせをしていたそうです。


 当初は他人行儀だった2人ですが、何回か打ち合わせをする内に、仕事以外に関する雑談も交わすような間柄になりました。


 ある日の事、若本さんはリモート会議を行っている際、


 画面の向こうは彼女の自宅の応接室なので、若本さんは


 (末松さんのご家族の方がたまたま部屋に入ってきたのかな?) 


 当初はその程度くらいにしか思っていなかったそうですが、老婆を目撃する頻度が多くなってきたので、徐々に不思議に思うようになったそうです。


 そもそも、彼自身はリモート会議を行う際は、お客さんの迷惑にならないように、家族には自室に立ち入らないように強くお願いしています。


 常識的に考えれば向こうも同じような配慮をするはずですし、彼女も自分の背後を家族が通り過ぎたら、気がついて何かしら注意をするはずです。


しかし、末松さんの様子を見ている限りですと、


 さらに彼は、彼女の背後を通る老婆を何回も見ている内に〝ある特徴〟に気がつきました。


 それは、彼女の背後を通り過ぎる時は、老婆は必ず泣き出しそうな表情をしているということです。


 それ以来、若本さんは個人的な興味で、末松さんの背後を老婆が通り過ぎた日程をメモしていました。


 それを見返すとことに気がつきました。


 それからしばらく経った頃、仕事の話を終えた若本さんは思い切って、


 「たまに、背後を通り過ぎる女性をお見かけするのですが、末松さんのお祖母様ですか?」


 と、本人に尋ねてみました。


 「それは、どういう意味ですか!?」


 画面上の彼女は不思議そうな表情をして、逆に若本さんに質問してきたそうです。



 そこで彼は、今まで自分が収集した老婆の表情や目撃した共通点などの情報を彼女に話しました。


「婆ちゃん!ありがとね! でも、もう心配しなくても私は大丈夫だよ!」


 若本さんの話をを聞いた末松さんは、そう言って画面の向こうで泣き出してしまったそうです。


 泣き止んだ彼女の話によると、半年前まで同居していた祖母がいたのですが、新型コロナに感染してしまい、治療の甲斐も虚しく亡くなってしまったそうです。


 その当時は、彼女は祖母の死に目に立ち会うことは出来なかったのですが、看護師から


 「お祖母様は、貴女がコロナに感染せずに健康に過ごされることを最期まで心配しておられました」


 という話を聞かされていたという事まで、若本さんに話してくれました。


 彼がリモート会議中に度々目撃したのは、死後も孫の健康を祈っている祖母の霊だったのでしょうか?


現在は、新型コロナウイルスも終息したので、末松さんの祖母も天国で安心していると信じたいです⋯⋯。




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