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第26談 引っ越し作業

 これは、私が大学生時代に体験した話です。


 当時、大学の同じゼミの友人であるA君とその彼女であるB子ちゃんが、同棲をする事になりました。


 2人は、それぞれ別のアパートで暮らしてたのですが、B子ちゃんがA君のアパートへ引っ越しする形で話が纏まったそうです。



 費用を節約したいという理由から、私は2人から、彼女のアパートの引っ越しの手伝いを頼まれたのです。


 彼らは、その報酬として私の好物の寿司を奢ってくれるという条件を提示してきました。


 実は私は、秘かにB子ちゃんに憧れていました。


 そのため彼女の役に立ちたい一心で、表面的には寿司を奢ってもらう条件に乗るフリをして、手伝うことにしたのです。



 引っ越し作業の当日、私は彼女のウケを取ろうと思って、クローゼットの前で頭を抱えてしゃがみ込み、


「ああー!ここには良くない霊がいるよ! ヤバいよ!マジでヤバいよ!」


と、出川哲朗さんのモノマネを交えながら、霊が見えるような悪ふざけをしてしまいました。


「もー!ひらやま君ったら、ふざけてばかりいて!早く荷物運ばないとお寿司ご馳走してあげないよ!」


私の本心を見抜いたのか、彼女は笑いながら言いました。




その言葉を聞いた私は、彼女のウケを取れたのが嬉しかったので、心の中で(やったぜ!) と叫びました。


 「ごめん、ちょっとトイレ行くから2人で作業してて」


 B子ちゃんは、そう言ってトイレに入りました。


 その直後、いきなり後ろからA君が私の肩を掴んできたのです!


 振り返ると、彼は私が今まで見たこともないような思い詰めたような表情をしていました


 「おい!ひらやま!今、何て言った?」


 その言葉と同時に、私を強引に部屋から連れ出しました。


(もしかして、俺がB子ちゃんのこと好きなのバレたのかな?)


 玄関前まで追いやられた私は、A君に(B子ちゃんに対する気持を見抜かれたのか?殴られる?)と内心ビクビクしていたのですが、次の瞬間A君は、


?」


と、予想外の事を言いました。


「A君、それはどういうこと?」


 私は、彼の質問の意味が分からなかったので聞き返しました。


 「とぼけるなよ!お前にも〝クローゼットの中のアレ〟が見えたんだろう?」


 彼は、半ば怯えるような感じで、私に言いました。


 「だから、訳わかんないって!A君〝アレ〟って何のことだよ?」


 「ひらやま、お前には見えてなかったのか? 2ー!」


 そう言ったA君の顔は青ざめておりました。


 しかし、私には彼が言った〝モノ〟は全く見えませんでした。


 前々からA君は霊が〝見える体質〟だったらしく、私は以前からこの類の話は聞いていましたし、嘘をついているような様子ではありませんでした。


 A君は、彼女の部屋に初めて入った時から、寒気がして何となく嫌な気配を感じていましたが、気のせいだと思い込むようにしていたそうです。


 しかし、クローゼット内に目玉を目撃した上に、私も同じ場所で霊が見えるような発言をしたため、自分と同じモノが存在しているのかを確認したかったそうです。


 私は彼に先程の発言は、悪ふざけだったと正直に言って謝りました。


「ひらやま。B子を怖がらせてはいけないから、今の俺の話は聞かなかったことにしといてくれ」


 彼の言葉に、私が無言で頷いた直後、背後から


「2人とも、今のは本当の話なの!?」  


 という言葉が聞こえたので、我々が振り向くと顔面を蒼白にしたB子ちゃんが立っていました。


 彼女は、部屋から急に出ていった我々を不審に思い 今までの話を聞いていたのです!


 「実はね、この部屋に住むようになってから何回も金縛りになるし、たまに〝誰かの視線〟を感じてたのよ!もしかして、この部屋にいた幽霊の仕業だったの!?こ、怖い!怖いよ!」


 そう言ってB子ちゃんはガクガクと震えだしました。


 A君の提案により、彼女は近くのファミレスで待機させる事にして、我々2人だけで何とか引っ越し作業を終わらせました。


 正直言うと、私もA君からクローゼットの中に浮かんでる〝真っ赤な人間の目玉らしきモノ〟の話を聞いてからは、1秒でも早く部屋から出たかったので、怯えながら作業してました。


 それから数日後、彼ら2人が不動産業者に、B子ちゃんの部屋の事を聞いた所、


 不動産業者いわく、B子ちゃんが入居する際に事故物件である報告を失念していたそうです。


 今となっては真相は分かりませんが、不動産業者は一刻も早く入居して欲しかったので、故意に事故物件だった事をB子ちゃんに言わなかった可能性もあります。


 それにしても、クローゼットに〝真っ赤な人間の目玉らしきモノ〟が浮かぶ要因となったのは、どれほど凄惨な事件だったのでしょうか⋯⋯?



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