目次
ブックマーク
応援する
5
コメント
シェア
通報

第27談 病院を見つめる男

 これは、私の知人で女優の宮坂真理(芸名)さんから取材した話です。


 私が宮坂さんと出会った経緯については、第25談「トンネルの中で⋯」をご参照ください。


 今から十数年前、彼女が某県立病院の医療事務に入りたての頃の時でした。


 その病院は予約患者専門のため、待合室は混み合う事もなく、予約されている患者さんと付き添いのご家族がいるのが、新人の彼女でもすぐに把握出来たそうです。


 当時、病院は増築工事中であり、受付横には完成後の大型模型が飾られていました。


 ある時、宮坂さんは、その模型を食い入るように見ている男性がいる事に気がつきました。


彼は上下ベージュ色の作業着姿で、彼女に背を向けていたそうです。


(誰かの付き添いかしら......?)


 最初、宮坂さんは、そう思っていました。


 気になったものの、彼女にも色々と仕事があります。


 ひとしきり業務を終えた後に、ふと待合室を覗くと 姿


 病院の玄関はチャイムが鳴る仕組みになっており、誰かが出入りすれば、その音で院内の人間が気づくようになっています。


 しかし、最後にその男性を見かけてからは、チャイムは一切鳴っていませんでした⋯⋯。


「さっき病院の模型を見てた作業着の男性、どこに行ったんでしょうね?」


 不思議に思った宮坂さんは、隣の先輩の女性に聞きました。


 「え?男性って誰の事?」


 先輩も不思議そうな顔して、逆に彼女に質問してきました。


 宮坂さんは、先輩に服装以外の男性の特徴も交えて説明しました。


 「あなた........見える人なの?」


 そこまで聞いた先輩は宮坂さんを恐れるような表情で見つめながら、そう言ったそうです。


その言葉の意味が分からなかった彼女は思わず


「はぁ?」


と、聞き返してしまいました。


しばらく2人の間には沈黙が続きましたが、やがて先輩が静かに語り始めました。


「宮坂さん、貴女が見たのは、多分よ」


「......担当してたという事は、今は辞められたんですか?」


「違うわ。残念なことに23!」  


 (それじゃあ、私が見た男性は、現場監督さんの幽霊だったの!?)


 先輩の話を聞いた宮坂さんは、そう思ったそうです。


 彼女たちが働いている病院には〝シンボルの塔〟がありますが、基本的には立ち入り禁止となっています。


 先輩の話によれば、その塔の窓に


 「その塔からは、工事中の現場がよく見えるので、きっと心配で見にきているのね……」


 先輩は、どことなく寂しそうな顔をしながら、そう言って話を終えました。


 彼女の話を聞いた宮坂さんは、


 その後、病院の工事が無事に終了しました。


(現場監督さん!病院は完成したので、ご安心ください)


 宮坂さんは、心のなかでそう言って、今は亡き現場監督の男性に祈りを捧げたとのことです。


 宮坂真理さんから取材した体験談は、まだまだありますので、別の機会にご紹介致します⋯⋯。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?