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第28談 うしろに立つ母

 これは、私の知人の紹介で取材させて頂いた鈴本美香子さん(仮名50代)が、今から40年以上前に体験した恐ろしくも悲しいお話です.......。


 彼女が物心ついた頃から、両親の仲は非常に悪かったそうです。


 なぜなら、彼女の父親はロクに家に金も入れず、博打などに熱中して稼ぎの大半を注ぎ込むという、典型的なクズ人間だったからとのことでした。


 当然、母親も事あるごとに旦那に文句を言っていたそうですが、その度に殴る蹴るなどの暴力を振るわれるので、その内に何も言えなくなってしまったそうです。


 そんな日々が続き、鈴本さんが小学校低学年になった頃の時です。


 帰宅すると、2人が居間で夫婦喧嘩してました。父親は酔ってるらしく、真っ赤な顔をして母親に怒鳴り散らしていました。


 幼い鈴本さんには、2人を止める事も出来ず、ただ黙って喧嘩を見ているだけでした。


 彼女は聞きたくもなかったのですが、勝手に耳に入った言葉によると、いつものように父親の生活費の使い込みが発覚したらしいのですが、この日ばかりは母親も怯まず、強めの口調で問い詰め続けていました。


 両親の言い争いを聞いていると、どうやら母親が子供のために密かに積み立てていた貯金を、父親がギャンブルに使ってしまったようでした。


 やがて、父親は母親に対して暴力を振るい始めましたが、今回ばかりは理由が理由だけに、母親は涙と鼻血を流しながらも文句を言うのを止めず、更にキレて父親の股間を蹴り上げました。


 男性の急所を攻撃され、父親は当然のことながら悶絶しました。


 しかし、それは逆効果だったようで、痛みが引くと父親は逆上して包丁を持ち出し


「てめえ!よくもやりやがったな!ぶっ殺してやる!」


と叫ぶと、彼女の腹部や胸を滅多刺しにしてしまいました!


 あっという間の出来事だったので、鈴本さんは父親の凶行を止められず見つめることしか出来なかったそうです。


部屋中が母親の体から吹き出た血で真っ赤に染まり、


「ぐえぇー」


という弱々しい悲鳴と共に、母親は事切れてしまいました。


殺人を犯したという行為で気が触れてしまったのか、父親は包丁を持ったまま


「ウへへへ!美香子! お前も天国に行くか!?」


と笑いながら鈴本さんに迫ってきたそうです!


 恐怖で体を支配された彼女は、一歩も動くことが出来ませんでしたが、次の瞬間、信じられない光景を目撃しました。


 何と、


 そして、父親の首を思い切り絞めたのです!


 その時の母親の表情は、今まで見たこともないような憎悪に満ちた鬼のようだったと、鈴本さんは語ってくれました。


流石の父親も、これには驚き


「な、何で?お前!?」


と呟いたそうですが、何の抵抗も出来なかったそうです。


正気を取り戻した鈴本さんは、その隙を突いて慌てて家から逃げ出すと、大声で泣きながら


「ママが死んじゃうよー!誰か助けて!」


と叫んだ所、異変を感じた近所の人が駆けつけて警察に通報してくれました。


 警官たちが現場に踏み込むと、鈴本さんの両親は絶命していたそうです。


 母親の死因は刺し傷による失血死、父親の方は首を絞められたことによる窒息死でした。


 彼女は、警官に死んだと思っていた母親が立ち上がって、父親の首を絞めた事も話しましたが信じてもらえず、


 「お母さんが首を絞めたから、お父さんは包丁で刺したんじゃないかい?」


 と、言われたそうです。



 後に大学生になった鈴本さんは、両親亡き後、育ててくれた親戚から聞いたのですが、当時の医者の見立てでは、


 悪魔のような父親から愛娘を守りたいという、母親の愛情が引き起こした奇跡なのでしょうか?


 それとも、長年虐げられ続けた彼女の怨念による所業だったのでしょうか⋯⋯?



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