目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報

第32談 ロッカー

 私にSNS経由で連絡をくれた西川武さん(仮名20代)から、取材させて頂いた話を紹介します。


 彼は、 数年前まで社員が15人程度の中小企業に勤めていたそうです。


 そこは、いわゆる親族経営の会社で2代目社長は創業者の息子(以下、A男さんとします)に当たる人でした。


 A男さんはケチだったらしく、経費を使う事を非常に嫌がっていたそうです。


 経営者としては、ある意味正しいのかもしれませんが、社内のトイレットペーパーの減り具合についても文句を言ってきたりするので、西川さんは(ウザい)と思ってたそうです。


 ある年、中途採用の社員を雇う事になったのですが、 更衣室のロッカーが1つ足りません。


 社内から、新しいロッカーを買うように意見が出ましたが、A男さんは


「どうせ勤務中に洋服入れとくだけの箱だろ?そんな物に経費をかけるのは勿体ない!誰かと共同で使えば良いじゃないか」


 と言って、聞く耳を持たなかったそうです。


しかし、新入社員の初出勤日の前日、西川さんが更衣室に行くとロッカーが増えていました。


「社長、新しいロッカー買ったんですね」


 ちょうど出勤してきたA男さんが部屋に入ってきたので、西川さんが聞きました。


 「この間、近所の中華料理屋が廃業したろ? そこの店主に連絡して、無料でロッカー貰ってきたんだよ! どうせ廃棄する物をウチの会社で再利用出来るんだから、ウィンウィンじゃないか!ワハハ!」


 A男さんは首を横に振りながら、得意げに答えたそうです。


そして、廃業した中華料理屋から引き取ったロッカーは、中途採用の社員(以下、B男さんとします)に支給される事になりました。


 ⋯⋯その後、更衣室内で幾つかの奇妙な現象が発生しました。


 まず、


 西川さんは最初は(B男さんの臭い?)と疑いましたが、彼自身からはそのような臭いはしませんでした。


 彼や他の社員は、原因不明の加齢臭の発生を不思議に思いました。


また、西川さんがB男さんと一緒に昼食を取っていた時の事です。


 「俺、。何か気味悪いんですよね」


 B男さんは、彼にそう言ったそうです。


「鍵が壊れてるんじゃないの?」


 西川さんは、実は廃業した店のロッカーである事は伏せて答えました。


「いいえ、鍵を閉めた後に必ず確認してるのですが、 その時は掛かってるんですよ」


 B男さんは、彼の意見に対して反論したそうです。


 それから間もなくして、西川さん自身も奇妙な体験をすることになります。


 彼は急遽翌日の朝までに客先に提出しなければならない書類を作成するため、夜遅くまで残業していました。


 23時過ぎにようやく業務が終了し、1人で更衣室で着替えていると、何となくではありますが、背後にあるB男さんのロッカーの方から強い視線を感じたそうです。


 嫌な気分を感じつつも、身支度を整えていた西川さんが、自分のロッカー内に設置した手鏡をふと覗いた時です。


 姿


驚いた西川さんは反射的に振り返りましたが、誰もいません!


 彼は慌てて更衣室を飛び出し、そのまま家に逃げ帰ったそうです。


 それから1週間くらい経った頃です。


 B男さんが、突然退職する事になりました。


西川さんが、理由を聞いても詳しい事は教えてくれませんでしたが、彼は(社長が貰ってきたロッカーに原因があるのでは?) と思いました。


その後、彼はA男さんに、自身やB男さんの体験談を話した上で、何度かいわくつきロッカーの撤去を提案しましたが、


「そんなもん、お前らの勘違いだ。どうせ新しい社員が入って来た時に使うから捨てないぞ」


 と聞く耳を持ってくれませんでした。


 その言葉を聞いた西川さんも、更衣室を使う事に耐えきれない事と、 経費の事しか考えないA男さんの性格に付いていけないという2つの理由で退職してしまったそうです。


 今でもA男さんの会社にはいわく付きのロッカーが存在してるかもしれません。


 これは、私の推測に過ぎませんが、中華料理店が廃業したのも、件のロッカーがの類だったのではないか?と思います。


 呪物とは、呪いが込められており、所有者に不幸をもたらす品物の事です。



 世界的に有名な呪物だと「アナベル人形」とか「ホープ・ダイヤモンド」などがあります。


 仮に私の推測通りだとしたら、ロッカーと距離を置けた西川さんやB男さんは、大した被害を受けなかった分、まだ幸運だったかもしれません⋯⋯。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?