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第33談 旅館の壁

 私は、20代の時に某大手家具メーカーの倉庫でバイトしていた時期がありました。


  その時、倉庫主任だったKさん (当時50代男性)から聞いた話です。


 Kさんが小学生だった頃、仲の良い同級生に足の不自由な A君という男の子がいたそうです。


 彼らが五年生の時に、H県に林間学校に行く事になりました。


 昼間は、みんなで和気藹々と楽しい一時を過ごし宿泊先の旅館に到着しました。


 その旅館は、築年数が経過してるのか、多少古臭く見えましたが、大きくて立派な外観をしていたそうです。


 旅館に入る前に生徒達は、先生の説明を聞く事になってるので、全員が玄関前に待機していました。


  その時、KさんはA君の様子がいつもと違う事に気がついたそうです。


「A君、どうしたんだい?」


 Kさんが尋ねると、A君は自分達が泊まる旅館を指差して


 「


 と答えました。


 「どこ?子供なんかいないよ?」


 何も見えなかったKさんはそう言いました。



 玄関前で待機中の生徒の誰かが先走って旅館に入れば、すぐに分かりますし、そのような行動をした者はいないようでした。


 「K君、見えないの? !」


 A君は、怯えた様子で、旅館を指差しながら言いました。


「見間違いだよ!それに壁をすり抜ける事なんか出来る訳ないじゃん!」


 Kさんは、A君の話を見間違いと決めつけてロクに話を聞かなかったそうです。


 そして、夕飯を終えて就寝時間となりました。


⋯⋯ここからは、後にKさんがA君から聞いた話となります。


 A君を含む身体が不自由な生徒達は、一般の生徒とは別の部屋が用意されており、昼間の疲れもあったのか、消灯時間になるとA君は早々に眠ってしまったそうです。


 しかし、彼は〝何者かの声と気配〟を感じて目を覚ましました。


 室内は真っ暗闇だったので時間は確認出来ませんでしたが、夜中である事は容易に想像出来ました。


 全神経を耳に集中させると、その声は複数の子供のようで、しかも部屋の壁の中から聞こえてくるようでした!


(何なんだ、この声は!?どうして壁の中から聞こえてくるんだ?早くどこかに行ってくれ!)


 A君は、心の中で祈ったそうです。


 彼の願いが届いたのか、壁の中の声は止んだのですが、今度は壁の中から「ドン!ドン!」と殴りつけるような音が聞こえてきました。


 恐怖のあまり、半ば金縛り状態のA君が壁を見つめていると、その音が聞こえる周辺がボワーッと青白く光りました。


 そして、壁の一部がまるでゴムを伸ばしたような形状になりました。


 


 やがて、伸びた壁を突き破るようにして、小学校低学年と思われる少年が現れました。


 少年は無表情のまま、A君に近寄ってきました......。


 A君の記憶は、そこで途切れており、気がつくと朝日が差し込み部屋が明るくなっていました。


 そこで、彼はあの少年を目撃した直後に、意識を失っていた事を悟りました。


 隣で寝てた生徒が目を覚ましたので、壁から聞こえる音について尋ねましたが、そんな物音は一切聞いてないとの返事だったそうです。


A君は、ひとまず布団から出ようとしましたが、両足に激痛が走り、立ち上がる事が出来ませんでした。


 彼の異変を知った先生は、近所の病院からお医者さんを呼んで診察してもらいましたが、詳しい原因は分かりませんでした。


 結局、A君は林間学校中は、両足が痛むため自室で寝たきりのままでしたが、不思議な事に家に帰った途端に、足の痛みは引いていったそうです。


 彼の突然の両足の痛みは、あの夜に壁から現れた少年の仕業だったのでしょうか?

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