私の趣味ですが、子供の頃から特撮ヒーロー作品が好きなんです。
『ウルトラマン』や『仮面ライダー』など、日本人なら誰でも知ってるメジャー作品は当然の事。マニアしか知らないようなマイナー作品なども観まくってきました(笑)。
今回皆様にお伝えする話は、私が特撮趣味を通じて知り合った友人のNさん(仮名30代男性)から聞いた体験談となります。
ほんの数年前までは、「ありふれた、どこにでもあるローカルヒーロー活動」だったのに、ある年の夏の日を境に、彼の世界はほんの少しだけ〝こちら側〟ではなくなったのです。
Nさんは、某県某市で活動していたローカルヒーローサークルのメンバーでした。
活動の中心は、地元の商店街で行われるお祭りや、ショッピングモールのイベントスペース。
毎年恒例の夏祭りヒーローショーでは、多くの親子連れが観劇にやってきたそうです。
その永遠に繰り返されると思っていた平穏な日常は〝あれ〟によって崩されることとなりました。
ある年の春。季節外れの冷たい風が残る頃、Nさん達はSNSを通じて新メンバーの募集を始めました。
それを見て集まった中の1人が、今回のキーパーソンとなる人物のWさん(仮名60代男性)です。
彼は造形担当としてサークルメンバーに志願してきたそうです。
地元の公民館で開催したメンバー募集の面接場に、Wさんは年季の入った工具箱を片手に、革のエプロンを身に纏い現れました。口数は少なかったが、瞳は異様なほどに輝いていたそうです。
「昔ね、俺は円谷プロに入りたかったんだよ」と、彼はNさん達にぽつりと言いました。
……その後、正式なサークルメンバーとなったWさんは、夏祭りに向けてヒーローショーの敵役となる怪獣の着ぐるみを制作することになりました。
Wさんが持てる造形技術の全てを注ぎ込んで誕生した〝その怪獣〟は、〝ゴジラ〟を彷彿とさせる王道スタイル。しかし細部の完成度が違いました。
鱗の一つひとつが手作業で張り付けられ、甲殻は硬質パテで厚く盛られ、牙や爪は、鋭く尖っており、眼には赤黒く光る反射板が埋め込まれていたそうです。
(ショーのための造形にしては、あまりにも本格的すぎる)
完成した着ぐるみを見たNさんは、そう思いました。
ある意味でローカルヒーローショーという枠組みからは〝浮いている〟ほどのクオリティでした。
そして、その怪獣スーツは、ショーの当日までWさんの自宅ガレージに保管されることとなりました。
Wさんが、着ぐるみのメンテナンスのためにガレージを開けたとき、彼は奇妙な違和感を覚えました。
照明を点けた瞬間、着ぐるみが……
正確に言うと、「目が合った」という感覚ではありませんでした。怪獣の目から、Wさんの全身を刺すような〝意識〟のような物を感じたそうです。
しかも、それは
ガレージに鍵はかかっていたし、Wさんは独身だったので、自分以外に出入りした者もいません。
しかし、
「気のせい、だよな……」
と自分に言い聞かせながら、彼はメンテナンスを終えた。
ガレージを出ようとした時、Wさんの背後でわずかに「ギチ…」という音が聞こえたそうです。
ラテックスの軋みとも、誰かの喉が鳴るような音ともつかない、薄気味悪い音でした……。
ショー当日。
Wさんの造った怪獣は、台本通りヒーローと激しいバトルを繰り広げておりました。
だが、クライマックスの直前、怪獣が突然グラつき、そのままステージから転落してしまったのです!!
予期せぬアクシデントで、観客席はどよめき、怪獣の中に入ってたスーツアクターは頭部を強打して意識を失ってしまいました。
当然のことながら、その場でショーは中止になったそうです。
搬送された病院で、スーツアクターは意識を取り戻し、こう語りました。
「……中に入ってる途中で、〝何か〟が俺を抑え込んだんです。着ぐるみが急に〝ズーン〟と重くなって、身体が一切動かなくなって。まるで着ぐるみの素材が突然〝鉄の固まり〟になったのかと思ったくらいでした……」
彼の表情は、単なるケガ人の〝それ〟ではありません。まるで、何か〝見てはいけないもの〟を見た者の顔でした。
……ここまでの経緯をNさんに話したWさんは、最後にこう言いました。
「実は……俺の造った怪獣が夜中に動いていたのさ。正確に言うと
彼の言葉を聞いたNさんは、背中に冷たいものが這うのを感じたと、私に話してくれました。
それは、単に「不気味な夢」の話だったからではありません。
Wさんが口にした〝夢の中の光景〟が、まさにNさんがショーの準備期間中に一度だけ目撃した、ガレージの中の〝奇妙な影の動き〟と一致していたからです。
あの日、Nさんは、ショーの打ち合わせでWさんの家を訪れていました。
本番前に、もう1度怪獣を見たくなったNさんは、Wさんの許可を得て1人ガレージに行きました。
その際、彼は確かに
その時の彼は(着ぐるみが、すきま風か何かで揺れたんだ!きっとそうだ)と、無理やり自分に言い聞かせ、深く考えないようにしていたのです。
その出来事が、〝夢の中で出てきた〟というWさんの証言と完全に重なってしまった。
「偶然にしては出来すぎてる……」
Nさんはそう呟いたあと、しばらく黙り込んだといいます。
古来より、「物には魂が宿る」と言います。
特に人の手で長く作られ、強い想いが注がれたものには、〝形〟ではない何かが残るとも……。
Nさん達のヒーローサークルが、翌年以降の夏祭りショーに参加することはありませんでした。
そして件の着ぐるみは、いまもWさんのガレージの片隅にあるそうです。
Wさんはもちろん、Nさん達サークルメンバーの誰も近づこうとしません。
なぜなら、あの夜と同じ〝音〟が、時折聞こえるからです。
「ギチ……ギチ……」と!