セクション1: エリシアの孤立
王宮での陰謀を暴く手がかりを掴んだエリシア・ローゼンベルクだったが、それと同時に彼女を取り巻く環境が大きく変わり始めていた。
「ローゼンベルク伯爵令嬢、どうやらずいぶんと活発に動いているそうね。」
貴族たちが集う社交界で、そんな皮肉めいた言葉が投げかけられることが増えた。
「お父上のご意向かしら?それともご自身の独断?」
「若い令嬢にしては、少々出しゃばりすぎではなくて?」
表面上は礼儀を守りつつも、明らかに棘のある視線が向けられる。エリシアは冷静を装いながらも、心の中ではため息をついていた。
(騎士団の支援や陰謀の調査を進めたことで、明らかに私を快く思わない人たちが増えているわね。でも、今さら止められるわけがない。)
彼女が推しであるエイドリアンのために行動を起こしたことは、一部の貴族たちにとって「異質」なものとして映っていた。王宮では、伯爵令嬢が騎士団に深く関与するのは珍しく、さらには王宮内の陰謀を暴こうとする行動も目立っていた。
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ある日の午後、エリシアは父親であるローゼンベルク伯爵に呼び出された。豪華な執務室で対面した父の表情は厳しく、彼女に向けられる視線には明らかな警戒心があった。
「エリシア、お前が最近王宮で行っていることについて、説明してもらおうか。」
エリシアは父の問いに、一瞬戸惑いを見せたが、すぐに背筋を伸ばして答えた。
「騎士団の環境を改善するための活動をしています。そして、王宮内での陰謀についても調査を進めています。」
その答えに、ローゼンベルク伯爵の顔が険しくなる。
「陰謀?そんなことはお前の関与するべき事柄ではない。伯爵家の娘としての立場を忘れているのか?」
「ですが、お父様。もしこの陰謀が王国全体に危害を加えるものであれば、私たちも影響を受けるのではありませんか?」
エリシアの言葉は正論だった。しかし、父はそれを簡単に受け入れることはなかった。
「確かに、お前の言うことは間違っていない。しかし、貴族社会では何事も慎重に行動するべきだ。お前の行動が他の貴族たちからどう見られているか、理解しているのか?」
エリシアは父の言葉に押し黙った。自分の行動が周囲に波紋を広げていることは分かっていた。それでも、彼女には守るべきものがあった。
「分かっています。それでも、私はこのままではいられません。エイドリアン様や騎士団の方々が安心して働ける環境を作りたいのです。」
その名前を口にした瞬間、父の表情がさらに厳しくなった。
「グランディス……騎士か。なるほど、お前が動いている理由が少し見えてきた。」
エリシアは少しだけ頬を赤らめながらも、毅然とした態度を崩さなかった。
「ええ、彼のような誠実で献身的な方々がもっと報われるべきだと思っています。」
父はしばらく沈黙していたが、最後には深いため息をついて言った。
「分かった。お前の信念は尊重しよう。ただし、これ以上目立ちすぎる行動は控えろ。それがお前自身を守るためでもある。」
「ありがとうございます、お父様。」
エリシアは礼を言い、執務室を後にした。だが、その心は晴れなかった。
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父との会話を終えた後も、エリシアは王宮で孤立していく自分を感じていた。かつて親しく言葉を交わした貴族たちも、彼女の行動を警戒するようになり、距離を取る者が増えてきた。
「エリシア様、最近お疲れのようですね。」
そんな中で声をかけてくれたのはカミラだった。彼女は純粋な笑顔を浮かべながら、エリシアの手を取った。
「カミラ様……」
「どうか無理をなさらないでください。私で良ければ、いつでもお力になりますから。」
その言葉に、エリシアは思わず目頭が熱くなるのを感じた。
(孤立していると思っていたけど、私にはまだカミラ様がいる。そして――)
彼女の心に浮かんだのは、推しであるエイドリアンの姿だった。彼を守るため、そして彼のような人々が安心して働ける未来を築くために、エリシアは孤立を恐れずに前進することを決めた。
(孤立している暇なんてないわ。私がやらなければいけないことがある――それが私の新しい人生の使命。)
エリシアは決意を新たに、次の行動に移る準備を進めるのだった。
セクション2: エイドリアンの窮地
王宮内の陰謀に迫る中、エリシアは騎士団との連携を強めていた。エイドリアン・グランディスを中心とした騎士たちの支援を続けながらも、陰謀の裏に潜む人物を突き止めるべく情報収集を続けていた。しかし、その矢先、エイドリアンが王宮内である疑惑をかけられ、窮地に立たされる事態が発生した。
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それは、エリシアがいつものように推し活――もとい、騎士団の視察をしていた日のことだった。王宮内に突然緊急の通達が流れた。
「グランディス騎士が国家機密を漏洩した疑いがある。直ちに謹慎処分とする。」
その一報を聞いた瞬間、エリシアの頭は真っ白になった。
(何ですって……エイドリアン様が国家機密を漏洩?そんな馬鹿なことがあるはずない!)
エイドリアンは、誰よりも誠実で忠誠心のある人物だ。それを疑う者などいないと信じていた。しかし、通達を受けた周囲の反応は冷たかった。
「グランディス騎士が……信じられないわね。」
「何かの間違いでは?いや、でも最近の様子を見ると……」
小声で囁かれる噂話が、エリシアの耳に痛いほど届く。
(これは陰謀だわ……でも、一体誰が?)
心の中で怒りと不安が渦巻く中、エリシアは騎士団の詰所へ急いだ。
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詰所に到着すると、そこには鎧を外したエイドリアンの姿があった。普段は凛々しい表情を見せる彼だが、今は少し疲れた様子を見せている。それでも、その背筋はまっすぐに伸び、堂々とした態度を崩していなかった。
「エイドリアン様!」
エリシアが駆け寄ると、エイドリアンは驚いたように振り返った。
「ローゼンベルク伯爵令嬢……ここにいらしてはいけません。」
「いけないなんてことありませんわ!この通達は一体何なんですの?」
エリシアの声には怒りが込められていた。その様子に、エイドリアンは少しだけ苦笑した。
「どうやら、何者かが私に罪を着せようとしているようです。ですが、ご安心ください。このようなことはすぐに解決するでしょう。」
彼の落ち着いた態度に、エリシアは少し安心したが、それでも疑念は拭いきれなかった。
「そんなに簡単に片付く話ではない気がしますわ。これは陰謀です……そして、あなたが標的にされている。」
「陰謀、ですか……?」
エイドリアンの目が少しだけ鋭くなる。彼もまた、この事件がただの偶然ではないことに気づいていたのだろう。
「ええ、ここ最近、王宮内で怪しい動きが続いています。そして、今回の件もその一環だと考えています。」
エリシアは確信に満ちた声でそう言い切った。しかし、その言葉にエイドリアンは首を横に振る。
「ローゼンベルク伯爵令嬢、これは私自身で解決しなければならない問題です。あなたを危険に巻き込むわけにはいきません。」
「そんなこと……!」
エリシアは食い下がろうとしたが、エイドリアンの冷静で揺るぎない眼差しに言葉を詰まらせた。それでも、彼女の心は諦めることを拒否していた。
「分かりましたわ。ですが、私にもできることがあるはずです。それを見つけて、あなたを助けてみせます。」
エリシアの強い決意に、エイドリアンは一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑んだ。
「ありがとうございます。あなたのそのお気持ちだけで、十分励みになります。」
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その夜、エリシアは自室に戻り、すぐさま調査を開始した。今回の事件が仕組まれたものだとすれば、必ず背後に誰かがいるはずだ。そして、それを暴くことができれば、エイドリアンを窮地から救うことができる。
エリシアはこれまでに集めた情報を整理し、少しずつ繋がりを探り始めた。そして、いくつかの共通点に気づく。
(やっぱり、あの貴族たちが関わっている可能性が高いわ……!)
彼らは最近、エリシアが騎士団支援の活動を進める中で最も反発していた人物たちだった。エリシアは心の中で拳を握りしめる。
(私が原因でエイドリアン様が巻き込まれたのなら、私が責任を持ってこの問題を解決しなければ!)
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翌朝、エリシアは王宮の廊下を急ぎ足で進んでいた。彼女の目指す先は、エイドリアンを誤解したまま処分を進めようとしている上官たちだった。
「ローゼンベルク伯爵令嬢がなぜここに……?」
驚く上官たちに向かって、エリシアは堂々と宣言した。
「この事件は、グランディス騎士様に罪を着せようとする陰謀です。私はその証拠を掴みました。」
彼女の力強い言葉に、周囲がざわめく。その背後では、エイドリアンが静かにその様子を見守っていた。
(エイドリアン様、絶対にあなたを救ってみせます!)
こうして、エリシアの孤独な戦いが本格的に始まったのだった。
セクション3: 陰謀の正体
エリシア・ローゼンベルクは推しであるエイドリアン・グランディスの無実を証明するため、王宮内を駆け回り、陰謀の真相を追っていた。エイドリアンが国家機密漏洩の罪を着せられた背景には、明らかに誰かの意図が潜んでいる。彼女はこれまで集めた断片的な情報を手掛かりに、その真相に近づこうとしていた。
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その日、エリシアはカミラ・アルセリアと共に、王宮の図書室である記録を調べていた。カミラはエリシアの献身的な行動に感銘を受け、協力を申し出てくれていた。
「エリシア様、こちらの記録に最近の貴族たちの動向が記されています。これが何かの手掛かりになるかもしれません。」
カミラが差し出したのは、王宮内での貴族たちの活動をまとめた報告書だった。それを手に取ったエリシアは、目を通しながら気になる部分に気づいた。
「……この名前。最近、王宮内で頻繁に動いている人たちのリストですわね。」
リストに並ぶ名前の中に、彼女がこれまで目をつけていた人物たちの名前がいくつか含まれていた。特に目立っていたのは、侯爵家の次男であるレイナルド・クラウス。その名前を見た瞬間、エリシアは何かが繋がる感覚を覚えた。
「やっぱり、彼が黒幕の中心にいる可能性が高いわ……」
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その夜、エリシアはエイドリアンと密かに会い、これまでの調査結果を共有した。
「エイドリアン様、侯爵家の次男、レイナルド・クラウスがこの陰謀の中心人物である可能性が高いです。」
「レイナルド・クラウス……以前から噂の多い人物ですね。しかし、なぜ彼が私を狙ったのでしょうか。」
エイドリアンは静かに眉をひそめた。彼自身、レイナルドと直接的な接点は少ないはずだ。
「それがまだ分かりません。ただ、彼が何らかの形で王国を混乱させようとしているのは間違いないと思います。」
エリシアは真剣な眼差しでそう断言した。その言葉に、エイドリアンはしばらく沈黙した後、小さく頷いた。
「分かりました。では、私も調査に協力します。ですが、ローゼンベルク伯爵令嬢、これ以上危険な行動は慎んでください。」
「分かっていますわ。でも、私がやらなければならないことがあるのです。」
エイドリアンの忠告にも関わらず、エリシアは自分の使命を貫く決意を新たにしていた。
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翌日、エリシアは王宮内で開かれる小規模な会合に出席した。その場には、レイナルドを含む数人の貴族たちが集まっており、表向きには王宮内の行事について話し合う場とされていた。
エリシアは会話に加わりながら、慎重に周囲を観察していた。すると、レイナルドが不意に彼女に話しかけてきた。
「ローゼンベルク伯爵令嬢、最近騎士団への支援活動に熱心なようですね。」
その言葉には、明らかに皮肉が含まれていた。だが、エリシアは微笑を浮かべながら答えた。
「ええ、彼らのように誠実に国を守る方々の力になりたいと思っていますの。」
「誠実、ですか……その中に、国家機密を漏洩するような者が含まれていなければいいのですが。」
レイナルドの言葉に、会場の空気が一瞬凍りついた。彼は明らかにエイドリアンを暗に非難している。エリシアはその挑発に動じることなく、冷静に切り返した。
「そのようなことが本当にあったのなら、きちんとした証拠が必要ですわね。」
その言葉に、レイナルドの目が鋭く光った。彼はにやりと笑いながら、意味深な言葉を残した。
「証拠……なるほど。では、いずれお見せする機会があるかもしれませんね。」
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会合が終わり、エリシアはすぐにエイドリアンの元へ向かった。彼女はレイナルドの態度から、次の動きが近いことを感じ取っていた。
「エイドリアン様、レイナルドは次の一手を準備しているようです。おそらく、さらなる捏造された証拠を使って、あなたを追い詰めようとしています。」
「そうですか……では、私たちも先手を打つ必要がありますね。」
エイドリアンの冷静な対応に、エリシアは心強さを感じた。
「彼がどのような計画を持っているかを探る必要がありますわ。そして、それを阻止するための準備を進めましょう。」
「分かりました。私は騎士団内で動きを抑えます。ローゼンベルク伯爵令嬢は、引き続き彼の周囲を調査してください。」
二人の間には、暗黙の了解のような絆が生まれていた。エイドリアンの窮地を救うため、そして王国を守るため、エリシアは行動を加速させるのだった。
(エイドリアン様、絶対にあなたを守ってみせます。この陰謀の真実を暴くのは私の使命――そして、あなたが再び笑顔を取り戻せる日まで、私は止まりません!)
エリシアの目には強い決意の光が宿っていた。
セクション4: 陰謀の決戦
夜の王宮は静寂に包まれていた。だが、その静けさの裏では、目に見えない緊張が漂っていた。エリシア・ローゼンベルクは、ついに推しであるエイドリアン・グランディスを陥れようとする陰謀の黒幕――レイナルド・クラウスの計画を暴く準備を整えていた。
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「エリシア様、これが最後の情報です。」
カミラ・アルセリアが、小さな手紙をエリシアに差し出した。その内容には、レイナルドが今夜王宮の一室で密会を行う予定が記されていた。そこでは、エイドリアンに罪を着せるための偽の証拠が取り交わされる可能性が高い。
「ありがとう、カミラ様。あなたの協力がなければここまで辿り着けなかったわ。」
エリシアは感謝の気持ちを込めて微笑んだが、その瞳には強い決意の光が宿っていた。
「ここから先は、私一人で行きます。カミラ様は安全な場所にいてください。」
「でも、エリシア様――」
「大丈夫ですわ。この件は私が決着をつけます。」
カミラは心配そうな表情を浮かべたが、エリシアの強い意志を感じ取り、それ以上は何も言わなかった。
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エリシアは、王宮の奥深くにある指定された部屋へと向かった。廊下を歩くたびに緊張が高まっていくが、彼女は足を止めることなく進んだ。
(エイドリアン様を救うため、私ができることを全てやり切る。それが私の使命……それに、この世界での生きる理由よ。)
やがて、彼女は目的の部屋の前に到着した。扉の隙間から漏れる薄明かりと、小声で話す複数人の声が聞こえる。
(やっぱりここで間違いないわね。)
エリシアは息を整え、慎重に耳を澄ませた。部屋の中では、レイナルドの声が響いていた。
「これがグランディス騎士を完全に失脚させるための証拠だ。王宮に混乱をもたらすには、彼のような規律正しい者を排除する必要がある。」
「ですが、レイナルド様、もしこれが露見すれば……」
「心配はいらない。すべてが計画通りに進んでいる。この証拠が広まれば、グランディスは二度と騎士団に戻れなくなるだろう。」
その言葉を聞いた瞬間、エリシアの中で怒りが沸騰した。しかし、感情に流されるわけにはいかない。彼女は深呼吸をし、冷静さを取り戻した。
(今ここで動いても、証拠を抑えられなければ意味がないわ。慎重にいかないと。)
エリシアは廊下の影から監視を続け、彼らが話を終えたタイミングを見計らった。そして、レイナルドたちが部屋を出て行った後、素早く中に潜り込んだ。
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部屋の中には、大量の書類が散らばっていた。その中に、エイドリアンが国家機密を漏洩したとされる偽の証拠が含まれているのは間違いない。
「これよ……!」
エリシアは急いで書類を確認し、必要なものを手に取った。その瞬間、背後から冷たい声が響いた。
「ようやくお出ましか、ローゼンベルク伯爵令嬢。」
振り返ると、そこにはレイナルドが立っていた。彼の手には短剣が握られており、その目には狂気が宿っている。
「あなた、本当にここまで首を突っ込むとは思っていなかったよ。」
「レイナルド様……あなたがこの陰謀の黒幕であることは、もう明らかですわ。」
エリシアは震える声を抑えながら言った。だが、レイナルドは余裕の笑みを浮かべている。
「それがどうした?お前一人で何ができる?」
レイナルドが一歩近づいたその瞬間、部屋の扉が大きな音を立てて開いた。そこには、エイドリアンを筆頭とする数人の騎士たちが立っていた。
「それはどうかな。」
エイドリアンの冷静な声が響く。その瞬間、レイナルドの顔から笑みが消えた。
「どうやって……!」
「ローゼンベルク伯爵令嬢が、あなたの計画を暴くために証拠を集めてくれた。そして、その報告を受けて、私たちが動いたのだ。」
エイドリアンの鋭い眼差しに、レイナルドは短剣を握りしめたまま後退した。
「くそっ……!」
彼が逃げようとしたその瞬間、エイドリアンが素早く動き、彼の手から短剣を奪い取った。そして、他の騎士たちがレイナルドを取り押さえた。
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その後、エリシアが集めた証拠とエイドリアンの働きにより、レイナルドの陰謀は完全に暴かれた。エイドリアンの無実が証明され、彼は再び騎士団に復帰することができた。
事件が解決した夜、エリシアは王宮の庭園でエイドリアンと二人きりで話をしていた。
「エリシア様、今回の件、本当にありがとうございました。あなたの勇気と知恵がなければ、私は今も疑いをかけられたままだったでしょう。」
「いいえ、エイドリアン様がいたからこそ私もここまで頑張れましたの。」
二人は静かな夜空を見上げ、束の間の安らぎを感じていた。だが、エリシアの心には新たな決意が芽生えていた。
(これで終わりじゃないわ。これからも私は、エイドリアン様を支えるために行動し続ける……それが私の新しい人生の使命だから。)
エリシアの物語は、まだ始まったばかりだった。
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