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0024 悪い笑顔

部屋では、ギルド長が渋い顔をして貧乏ゆすりをしている。

ギルド長の恐い顔が昨日より恐くなっている。


「今日は何のご用でしょうか?」


ジュラさんが、すました顔で聞いてくれた。

ギルド長は、ちょっと驚いた表情をしてソファーから立ち上がると窓際に移動した。

いったい何だというのだろうか?

ギルド長は移動が終わると真剣な表情で手招きをする。

仕方が無いので面倒臭そうにギルド長の横に立った。


「こ、これは!!」


僕は驚いた。

ギルドの2階の、応接室の窓からの景色は昔見た東京大空襲後の街の様子に似ている。

城塞都市の4分の1、上級国民のエリアの何もかもが崩れ落ち瓦礫しかない。

唯一、残っているのはジュラール邸だけだ。


「…………!?」


ギルド長が驚く僕を見て驚いている。


「これは酷い。いったい何があったのですか?」


「ぷひゅっ!」


僕が言った瞬間、ジュラさんが吹き出した。


「はああーーっ!!」


ギルド長が怒りの表情で僕をにらみつけてくる。

だから、恐い顔をしたおじさんの顔を、僕は苦手だと言っているのになあ。


「あのぉー、これはデミル様がやったのですよ」


楽しそうにジュラさんが僕を見つめて言った。


「ええーーっ!! ――あーそうか。地面に立ったまま見るのと、2階の窓から見るのとでは、全然ちがって見えるものなのですねえ」


「のんきに「ものなのですねえ」では、ないですよー。こ、これを、どうするつもりなのですか?」


「あら、メデュル様はおわかりになりませんか?」


ジュラさんが、鼻をヒクヒクさせながらギルド長に言いました。


「はあぁぁー??」


「お分かりにならないのですね。ではデミル様にかわって、私がデミル様の深い考えをご説明いたしますわ」


ええーっ!

僕に深い考えなどありませんよ。


「は、はあ」


ギルド長は情けないため息のような返事をした。


「まず、これは壊したのではなく、正確には壊れたのです。壊した犯人は強盗達です。デミル様は強盗を止めようとして体をはって制止しました。ですが、強盗達は事もあろうにデミル様を突き飛ばしたのです。デミル様は吹飛ばされました。ただそれだけのことです」


「と、言われますと、デミル様は被害者ということになりますなあ」


「そうです。悪いのは強盗達です。でも、デミル様を吹飛ばし街を破壊し尽くすような悪党です。Fクラスの冒険者のデミル様の手には負えず取り逃がしました。まあ、この街の上級国民は皆、保険に入っています。保険会社に支払いを求めればよいのではないですか」


「な、なるほど! そういうことですか。瓦礫をどけるにも大金がいります。新しく建て直すにも大金がいります。街に建設特需が起きて街がうるおいますなあ」


「はい、それだけではありません。マフィア達がアジトを失いました。しばらくは戻って来られないでしょう。貧民達は建設の仕事にありついてお金が稼げます。すると犯罪は激減するはずです。この隙に治安を向上させて、マフィア達が戻って来られないようにするのです」


「おおっ!! さすがはデミル様!! そこまでお考えでしたか。なるほど!!」


いいえ、僕はそこまでは考えていません。

保険屋の支配人が気にいらなかったので少し困らせてやろうとしただけです。

その程度のうつわの小さい男なのです。


「ふふふ、これで、ジュラールの領都に大金が落ちて、治安も向上します。すべてデミル様の計算通りとなったのです」


「ふふふ、保険会社は大損ですが、あいつらは少しもうけすぎています。丁度いいでしょうなあ。がはははは」


「うふふふ」


ジュラさんとギルド長の2人が笑っています。

もはや、この2人が悪代官と悪徳商人に見えてきました。


「ところで、家を失った方達はどうされましたか?」


ふと、僕は家を失った上級国民達が気になった。


「ああ、それなら心配ありません。街の中央のお城の1階のエントランスに避難しています」


「お金持ちが一箇所に集っているのですね」


「は、はい」


ジュラさんが首をかしげながら返事をしました。


「ふふふ、ふぁーはっはっはぁーー!!」


僕は、マッドサイエンティストのように高笑いした。


「あ、あの、デミル様。どうなされたのですか?」


「ふふふ、ジュラさんにもわかりませんか」


「は、はあ」


「では、行きましょうか。今日は警備の仕事はお休みです」


「はあ、マフィア達がいなくなったので大丈夫だとは思いますが???」


ジュラさんは首をかしげて、僕の考えがわからないようだ。


「では、メデュルさん、サイアさん失礼します」


僕はギルドの応接室を後にして、街の中央にある高い城壁に囲まれたお城に向った。




「止まれーー!!」


お城は高い壁に囲まれ深く広い堀の内側にあります。

城の門の前には跳ね上げ橋があり城の門までは1本道です。

お城の門には数人の衛兵がいます。

衛兵の前に立つと、衛兵は僕の胸のプレートを見ました。


「ふん、Fクラスの冒険者か! ここはお前達が来るような所ではない! とっとと消え失せろ!!」


僕は、ジュラさんの顔を見ました。

ジュラさんは、顔の布を外します。


「こ、これは、ルド様!! し、失礼しました! どうぞお通りください」


僕達は、すんなり城壁の門の中に入ることが出来ました。

城壁の門をくぐると中庭です。

中庭には、石が敷き詰められていて草一つ生えていません。

この城は防御拠点に特化しているようです。


「止まれーー!! おお、これはデミル様!!」


城の入り口でも止められましたが、僕の顔を知っている人のようです。

すんなり入ることが出来ました。

僕は存外有名人のようです。


城のエントランスに入ると、大勢の人がいます。

大勢のメイドさんや執事がいそがしそうに働いています。


「ジュラさん、この人達は皆お金持ちなのですか?」


「ええ、全員お金持ちですわ」


「ふふふ、ジュラさん。僕はここをアミューズメントパークにしようと考えています」


「あみゅーずめんとぱーくですか? それはいったいなんでしょうか?」


「うふふ、僕がここで寝ます。そして、ここのお金持ちも眠ります。どうなると思いますか?」


「あーーーーっ!!!! カツ丼にお寿司にディスカウントスーパー!!!!」


「そうです。1回目はサービスです。2回目からは銀貨1枚です」


「いいえ、いいえ。金貨1枚でも大丈夫です。それでも安いくらいです。さすがはデミル様です。お見それいたしました」


「ふふふ。では、はじめましょうか」


「はい」


僕とジュラさんは見つめ合い悪い笑顔になりました。

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