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第九話 思った以上にイチャイチャしてた


『はい、あーん』


『バカ。俺に食わせてどうすんだよ。お前に作ったんだぞ』


『あれ? 照れてる?』


 スマートフォンの画面を凝視しながら、大翔は耐えきれずに床にころがってジタバタと足をバタつかせた。


(恥っず!! 恥っず!!! なにこれ恥ずかしっ!!)


 やっている時は気にならなかったが、チェックのために見返してみると、酷く恥ずかしい。


 なぜ、自分は真夏に「あーん♥」なんてやってしまったのか。真夏も照れているようにしか見えないし、恥ずかしすぎる。


「なんで床に転がってんだ?」


 と、そこに重箱を片付け終えた真夏が戻ってくる。大翔はのそりと起き上がり、「なんでもない」と咳払いする。


「ど、動画のチェックしてただけ」


「ふーん? で、使えそうなのか?」


 その言葉に、大翔はニッと笑って顔を明るくする。


「バッチリ! 想像以上!」


(想像以上にイチャイチャしてた!)


 気恥ずかしさを堪えながら、そう宣言する。お陰で、良い滑り出しになりそうだ。


「ふーん。良かったじゃん。それでこの後はどうすんだ?」


「ストックも作りたいし、ゲームやろうか?」


「ゲームやるのは良いが、それってただのプレイ動画にならないか?」


「いや、まあ、そうなんだけど……」


 それは仕方がないだろ。そう思って、大翔はむぅと唇を曲げた。




   ◆   ◆   ◆




「いや、だからって、こうなるか?」


「なにか文句あるのか?」


 結局、ゲームをやることにしたのだが、ゲーム画面だけを映していたのでは、カップルチャンネルの動画としてはどうなのか、と議論になり、結果、ゲーム画面の他にも自分たちの様子を撮影して、ワイプで表示させることにした。


 ワイワイ遊んでいるのを見せるのは良い。大翔も賛成だ。だが。


「なんでお前に抱っこされなきゃなんないんだよ」


「カップルチャンネルだぞ」


「そうだけどっ!」


 羞恥心を誤魔化すように、大翔は顔を背ける。


 現在、大翔は真夏に後ろから抱き締められるような形で、真夏の脚の間にすっぽりと収まっている。その状態でコントローラーを握り、ゲームをしろと言うのだ。


「お前の小ささも際立つし、丁度良いだろ」


「ハァ!? どうみても小さくないし! お前がでかいんだろ!」


「一緒だろ」


「一緒なわけあるかっ!」


 ムッとして立ち上がろうとした大翔を、真夏がぎゅっと抱きすくめる。


「っ! ちょ」


「ビジネスカップルで動画作ろうって覚悟が足りないんじゃないか? お前、わかってんの?」


「っ、そ、それは……。それくらい、わかってるっ!」


 一瞬、覚悟のなさを見透かされた気がして、動揺して視線をさ迷わせた。真夏の方が、肝が据わっているらしい。


(そんなの、解ってるし)


 ぐっと込み上げるものを堪え、唇を結ぶ。


「だったら、こんなことくらいで騒ぐな」


「……そ、そうだな。こんなことくらい……」


(くそ……。俺だけかよ、恥ずかしいの……)


 心臓が騒がしい。密着した部分から、自分の鼓動の速さがバレてしまうのではないかと、大翔は内心ソワソワした。


「と、とにかく、ゲーム始めるからなっ」


 そう言いながら、大翔はコントローラーを握りしめた。用意したゲームは、トリオブラザーズというアクションゲームだ。プレイ動画としての人気も高く、操作もしやすい。なにより、動画配信が許可されているというのが大きい。


 録画開始して、前説をし終わったところで、真夏が急に話を振る。


「なあ、やっぱ買った方にご褒美が必要じゃないか?」


「え?」


(コイツ。動画撮り始めてから言いやがって)


 真夏の発言に呆れたものの、最悪は編集でカットしてしまえば良い。


「んー。良いよ? 俺、負けないもんね」


「ご褒美楽しみにしておくな。ハル」


「勝った気になるなよっ」


 なんだかんだノリノリじゃないか。そう胸中で毒づきながら、ゲーム勝負が始まった。




 ◆   ◆   ◆




「はっ!? えっ! ああっ! お前っ! それは卑怯だって!」


「卑怯とかねーだろ。戦略だ戦略」


 大翔はゲームが上手い方だ。だから自信があったのだが、結果は惨敗だった。真夏のやり方は意地悪で、いやな場所にアイテムを置いたり、いやなタイミングで使ってくる。結果、惨敗となってしまった。


「最悪ーっ!」


「残念だったな」


 真夏がニヤニヤと笑う。その様子が気に入らなかったが、負けは負けだ。自信があっただけに悔しいが、仕方がない。


「もう。次は勝つからなっ!」


「いつでもどうぞ? で、ハル。忘れてないよな?」


「あ――罰ゲームだっけ?」


「馬鹿。違う。ご褒美だって」


「ご褒美ぃ? 何が欲しい――」


 何が欲しいんだよ。そう言いかけた大翔の言葉は、最後まで紡がれなかった。真夏の手が、大翔の顎を掴む。


「勝手に貰っていくな」


 そう言って唇が近づくのを、大翔は他人事のように見つめていた。




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