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神龍時 宇宙という男は……。②


 ただいま午後八時。都内の某裏道。

 昼間の春の穏やかさとガラリと変わり、肌に冷んやりと突き刺さる残り冬の寒さ。

 ジーパンと白のワイシャツ。その上着に春のコートは夜風の冷たさには、かなりキツいってものだよ。

 手紙の内容を受け取った僕は、急いで一時間に二本しか運行しない地元の電車から乗って来た。そして、やっと着いた東京都内。


「……それにしても、相変わらず。人気のない裏道だなぁ、ココは」


 この裏道の入り口から見た一本道は、昼間は昔懐かしさを感じさせる不思議な感覚に落ちる。

 現代に置いてけぼりをされ、〈この空間だけが時が止まった〉ような ーーという例えが正しいかもしれない。これは、他の十二支のスタッフ達数名が同じ事を言っていることだ。


 空間内の空気が、妙に懐かしさを感じさせられて落ち着く、と。


 落ち着くということは、つい〈自分が出てしまう〉という意味もある。

 今は、一昔前華やかな時代だったモノが崩壊し。不景気へ突入した後、流行性ウイルスの追い討ちをされ、抵抗し敗れた残骸が残っているシャッター街となっている。数年前は、大衆食堂、居酒屋で盛んだったらしい。

 この話しを、耀さん ーー 【未谷 耀さん】という、未谷家の現当主。五歳年上のお姉さんから聞いた内容だ。


 「今度仕事終わりに、行きつけの心のオアシス居酒屋、〈マリリン〉に連れて行ってあげるわよ!ここの日本酒が美味しいのよ〜、宇宙。大丈夫よ!私の奢りだからね♬

だから、〈六つ子の皆んな〉にも言っておいて」


 この最後の言葉を聞いた後、脳内に鈍器を殴られた感覚をしたのは今でも覚えている。

 あの時は、ムカついちゃったからさぁ~~━━━━……。

 翌日、社長の所へ行って彼女を〈海外異動〉させるように勧めたんだよね。

 ついでに、僕の自宅でお祭り騒ぎをしていたアイツもだ。

 酔っ払った勢いで、うちの愚弟の嵐と一緒に〈雷の能力〉を誤爆させ、自宅を半壊した【猿堂 陽介】っていうクソ猿当主も!


「……僕さ、耀さんと二人っきりで飲みたかったんだよねー……。誘われた時、嬉しかったのにさー……。口説こうと思ってたのになぁ〜。

本当、鈍感な人ほどタチが悪いし。幸せで残酷だよね……」


 それから数日後。

 耀さんが海外異動することになった。そのことを〈タイム・トラベラー僕の能力〉で、近未来を知った。

ーーなので、それに合わせて日本滞在最終日に、彼女が空港に到着する時間に足を運んだ。


━━━━……なぜかって?


 僕の存在を彼女の記憶に埋め込むためさ。

 こうすれば……耀さんの中で〈僕の存在〉は生き続けるからね。

 ちなみにコレは、今から三年前の話しだ。


「今、元気にしているかな……?耀さん。

会いたいなぁ……」


 独り言が、虚しく空気に溶け込む入り口で。今は、シャッター通りになった電灯があるけど無いに等しい【虚無】の裏道。

 そこへ足を踏み込もうと〈境界線〉を跨いだ。


 すると、店として存在をしていたコンクリートの両壁際に丸み帯びた淡い光。ベースボール並みの大きさが、一瞬で生まれる。

ーーぽっ、ぽっ、と入り口から徐々に奥へと順番に灯り。

 前見た狐火のような淡く揺らぐ光は、幻想的美しい妖しさだった。ふと、狐の嫁入りを思い出してしまう。

 それくらい、今は異質的な魅力なのだ。


 もう一度言うが、この裏道に現在の時間帯に営業している店は無い。営業していたとしても昼間のランチタイムのみ。こんな事する奴は、あの人くらいだ。


「━━━━……社長、だな」


 それしか考えられない。そして、ーー

(……ココから先は、〈思考禁止〉だね)

 そう、ーー何も考えてはいけない。

 疑問に思ってはいけない。

 シゴトをもらえる前に、存在が消される可能性があるからだ。それだけは避けたい。それにしても、


「……今回は、提灯じゃないんだ!

へぇ……、本当に遊び心があって飽きないなぁ。あの〈公主さん〉は」


 社長もとい〈公主〉に会いに行くため、慎重に相手の領域へ一歩、地に右足をつける。次に左足を踏み込み、奥へと歩を進める。

 それに合わせて先々の道へ案内するように淡い青白い灯りが増えていく。その距離、五歩分。

 青白い光に灯された空間内。

 昼間の穏やかな表現と違くて幻想的な姿へと、ガラリ、と夜の顔になっている重い宵闇の現裏道。


 黒。漆黒。真っ暗。BLACK ━━━━と、いう表現以上でこの世に得た知識で例えようがない、絵画の一枚と思わせる風景。

 その中で、許可を得られた青白い光。

 その情景を、視界に入れつつ。どんどんと、奥へ、奥へと吸い込まれるように進んでいく足。


 よくテレビ放送で、異世界へ行く前触れでこんな展開をやっていたなぁ……、と呑気に思い出す。

 あの時は、小説教室に通っている時の若かりし頃。作家として、売れていない時期だった。


「…………まるで、神隠しみたいだな。厄の事件と似たようなモノでしょ、コレ」


 懐かしさで柄にもなく思い出に浸ってしまい、ぽろっと本音がでてしまった今。

 しまった!と、思い慌てて直ぐに思考を切り替え、無理矢理〈無〉に塗り替える。

 この事は、公主さんに知られてない事を祈りながら、僕は宵闇の道へと歩み進めた。

 目指すは〈よろず探偵事務所〉。


 厄除師のシゴトを承っている、現事務所へーーーー……






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