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神龍時 宇宙という男は……。②


◇◇◇◇◇◇

〈神龍時 宇宙 視点〉


ーー作業終了後。

 この僕、神龍時 宇宙は本日のお昼。妹が彼氏と同棲している県外の賃貸アパートへ、遊びに行った時のことだ。


 目的地へ到着する十分前。

 道中で、〈表向きで〉偶然会った地雷に、いつものように陽気に話しかけた。

「今から、妹の彼氏の所に行くけどどうだい?

〈コレ〉を君の推しカプの為に届けに行くんだけどさ」

伝えた後、というブツを相手に渡す。

 渡された相手は中身をその場で読む。数分後、目がとろん、とし惚けた。

 これまた予想通りの反応。

 心の中で感想述べた直後に目を輝かせ、ズイッと興奮気味に僕の顔を近づかせた。


「…………ッ!ーー宇宙兄さんッッ!!」


 突然、弾けるようなソプラノ調のアイドル声。耳が痛くなる声量に、また始まったか……と内心面倒くさくなる。

 僕がそんな考えをしていると露知らずの相手。こちらの手を覆うように、ガシィィィッ!と効果音が出るくらい、強く、強く握ってきた。

 その勢いに合わせて、地雷の艶のある黒髪ボブヘアーは踊るように舞い上がり。陶器のような白い肌は頬を紅く染めている姿は、世の中の男性の心を鷲掴みされそうな可愛さだ。

 その仕草だけでも、目に惹かれる。

 同時に、成熟されていない中性な顔立ち。そして、ハート型の眉。いつもは、萎れている天辺のアホ毛が、今は勢いよく起立している。まるで、犬の尻尾のように揺れている。いつもは自信なさげの大きな垂れ目の瞳を持つ ーー年下の彼。

 今は、瞳の中に星を埋め込んでいるのではないか!?というくらい一等星を輝かせている。コレは……、〈自分の推しに出会って、生きる活力が滾ったぜッッッ!〉と言わんばかりの鬱陶しい圧。


 うん……、全くもってウザいくらいに。


 しかも、逃さねーよ!と目で訴え、僕の手を強く、強く、今だに握り締めている。

 見た目は女子高校生みたいな華奢なくせに。こんな細腕のどこから、バカちからが湧いてくるのか……!ここまでくるとさぁ……。

 (コイツ精神的に病気じゃね?……と、半分哀れんでしまうよ)


 彼の名前は《|子《ねずみ》》の本家、末っ子。【子島 伯ねしま はく】。


 好きなモノに対しては、暴走機関車の如く慌ただしく突っ走る彼。そこは妹の友人である、亥家の〈猪突猛進コスプレ女〉と似ている。


 いや ーー同類だよ、コイツら!


(というか、いい加減離してくれないかなぁ〜〜ー。僕さ、自宅に帰ったら次回作の小説を執筆しなきゃいけないのにさー……)

 そう心の中で毒を吐いていても止まらない、暴走腐男子ネズミ。


「行きます、行きます、行きますよーーッッッ!!今から推しカプを間近で見えるなんて!いやッ!!会えるなんてッッッ!!誘って頂きありがとうございます、宇宙兄さん」

「あぁ、良いよ。良いよ〜。喜んでもらえて僕も嬉しいし」

「あ、あと、今読んだ〈推しカプ〉の新作最高ですよ☆この素晴らしい作品を届けに行くなんて宇宙兄さん、本当に優しいですね……。

流石は、学生時代に《聖母》って言われてた方ですね!ボク、いつも尊敬してます!!」


 目的地へと一緒に向かいながらの、この様子に無意識にニヤリと口元が綻ぶ。

 そして、改めて思った。


(やっぱり便利だな……僕の〈能力〉は!)


 今日は、妹の不在を狙ったから邪魔はされない。そして、今回の原因物への嫌がらせ材料として腐男子の伯と偶然を見せかけた鉢合わせ。

 コレで舞台の準備はできた。

 ーー 

 ちゃんと色んな日常を〈観察してきて〉、自分にとって好都合だと選んだ日だからね。


 僕の能力【時空の放浪者タイムトラベラー】の能力の一つ……。 ー 未来 観測 ー


(さぁ!コレ〈嫌がらせ用のBL本〉と、この子の暴走で。

アイツらの精神面メンタルをボコボコにしてやるさッッ!!)


 再度言うが、ここまでの出来事は、。今までの偶然の出来事は、全て僕の計算の内に入った流れでだ!

 そんな事を露知らずの伯は、

「推しカプに何のポーズをお願いしようかな〜♬会えるなんて楽しみすぎて、下腹部がきゅん、きゅんしちゃうなぁ♡」

 隣で呑気に言っている姿に、これから人気の遊園地に行くのを楽しみにしている幼稚園児の光景だな……と僕が密かに思ったのはここだけの話しだ。それにしても、


(………下腹部が〈きゅん、きゅん〉しちゃうって、何??……お前、男でしょ!?)


 これも僕の仏心の中で、ツッコミを入れた一部。言葉にしたくてもできないのは理由がある。

 伯は、侮れない存在である。


ーー〈子〉の一族は特にそうだ。


 うっかり地雷を踏んでしまって、彼が感情に任せて能力を発動させてしまったら太刀打ちできないからだ。これは、十二支の中の上級者達は皆予想している。


 特に、【盗む】という能力は厄介だ……。


 そんな爆弾と隣り合わせで移動し、やっと到着した目的地。

 妹の彼氏と〈原因物のその友人〉が酒を呑みながら話し合いをしているのを、玄関前にいる自分達の耳に入った。

 (全く持って、良いご身分な事だ……。この僕に喧嘩ふっかけておいてさッ!)

 内容は予想はつくが。こちらにとってはどうでも良い話しだと、この時は興味無さげに思ってしまった。本当に興味無いから仕方がない。


 話しは戻すが、今回はストッパーの役割をする妹が居ない状況下。

 同時に道中で会った〈子〉の一族であるイラストレーターの彼、伯と一緒にだ。

 つまり、アイツらの嫌がる顔を〈観ながら〉楽しむ事ができるという事!!

 これから起こる事は、僕にとって最高の仕返しができる時間である。


 直ぐにチャイムを鳴らした後、玄関が開くと妹の彼氏が出迎えた。その奥には原因物である〈妹の彼氏の友人〉がいる。それを目の当たりにした伯は目を輝かせて、狂気の如く歓喜乱舞した。


「うわぁ……、推しカプだぁぁぁあああ!!!!目の前にスパダリ攻めの人ッ……!あ、奥にツンデレ受けの人がいるッッー!!あの……、あの、サインしてくださいッッ!!あと、◇◇◇責めとか●●●●しのデッサンさせてくださいッッッ!!それがダメなら、△△液付きのディープキスを……!!」


 平日の午後の玄関前にて。

 突然始まった、ライブの観客のようなお祭り声と卑猥な単語たちの合唱。

 一階で井戸端会議をしている主婦達の耳に届いているだろうね……、知らないけどさ。

 まぁ、この後どうなったかは別の機会の話しで。



 ◇◇◇


 そして現在に至る、夕方五時の自宅内にて。


 先程の出来事を、しみじみと思い出しながら、「ざまぁーみやがれ!小説家を馬鹿にした罰だよ」と言わんばかりに腹を抱えて大爆笑をする。

 笑い涙を一筋流しながら、居間へ行くと一通の封筒がふと、視界に入る。


 ーーーー 神龍時 宇宙 様へ 


 縦長の皺の無い白い封筒が一通、テーブルの上にポツンと虚しく置かれている。ディープブラウン色の木製のテーブルに置かれている白色は、嫌でも目立つ。

 しかも自宅に僕しかいなかった一週間前、

 これは、アレしかない。


「……厄除師のシゴトだ」


 でも、いつもだったら……お飾り長男の【海里】兄さんか、KYくそったれ愚弟の【嵐】宛に来るのに。

 不思議に思いつつも、室内のソファーに腰を下ろし片手に持っている縦長の手紙の封を開ける。ご丁寧に三つ折りされた手紙を静かに広げた。


〈拝啓、神龍時 宇宙 殿


突然のお手紙を失礼致します。

この度は、とある案件でお力添えを貸して頂きたく執筆させて頂きました。


ー 天国 ◼️吸う 図書館の◼️◼️ 涙 ー


詳細に関しては事務所にて。お待ち申し上げます。【よろず探偵事務所】〉



「………………どれどれ。

〈ー 天国 ◼️鬼 吸う 図書館の◼️◼️ 涙 ー〉……って何!??コレ」


(いつもだったら、案件資料も同封するくせに……)

 しかもこの達筆の字は……、《公主》だ!!

 社長である公主が執筆してくるとは珍しい……。という事は、今回の案件は面倒な事だろうと察した。つまり……、


「……報酬額が高額の可能性があるッッ!!」


 それなら、納得だ!

 そう結論出した瞬間、ソファーに座っていた腰を隼の如く立ち上げる。

 厄除師の高額案件は、早い物勝ちの世界だ。

 何せ、僕達のシゴトは各十二支の当主以外は業務委託が基本だからね。

それにしても……、


「〈ー 天国 ◼️鬼 吸う 図書館の◼️◼️ 涙 ー〉

と、詳細聞きたいなら事務所に来いというだけのメッセージなんてさぁ……。

あのタヌキじじい……、人の好奇心を擽るのが相変わらず上手な人だ……」


ーー 好奇心は、猫を殺す


 という言葉があるが、こちらからしてみたら退屈よりマシだと思う。今の僕にとって、

「……退屈は、【死】と同じだからねぇ〜☆」

 あの件以来いつの間にか、口癖になっている言葉を無意識に出た後。急いで春用のコートを着直して再度、自宅を出た。

 だがこの時の僕は、知らなかった。


 最近、苦戦している【例のおシゴトの件】だという事を ーー




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