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現在、都内M市の宿泊先にて。
ここは公共温泉が設置されている商業施設。宇宙が都内へ仕事に訪れた時によく利用している勇逸の場所である。
県外から足を運んだ者にとっては、都内は未知の世界であり不慣れな場所だ。その為、一日の疲労感は通常の倍で、〈癒し〉への渇望感も比例するように増加してしまう。
この商業施設は、都内と隣県の間にあって交通には便利。
だが、駅から離れた場所にあるというデメリットがある。送迎バスは二時間に一本という不便さがあるのが難点の一部だ。
隣県にもこの温泉施設はある。
そこは駅から徒歩十分以内に設置されていて、公共機関である電車の本数も五分に一本という快適さが売りだ。しかも、都内から東海道線で行けば、三十分で行ける距離。
それだったら、隣県の施設にすれば良いではないかと思う人もいるだろう……。
そこも、宇宙にとってこだわりがあるのだ。
先ほども言ったが、彼にとって〈癒し〉が欲しいのだ。特に県外から来た者にとっては。
しかも、平日は宿泊者が少ない為か案件の手紙を拝読した後、すぐにシングル部屋を予約を入れることができた。
「うーーん、気持ち良いなぁ〜!
やっぱり、都内に来たら宿泊はココだね。本当に癒されるし、地元では味わえないからね〜〜。ここの水素風呂は」
只今、二十二時五十分。
誰も居ない、温泉内で独り言をつい漏らす。身体を洗い清めた後は、まず水素風呂に向かう。
この水素風呂は、彼の目的の一つ。
人肌より少々高めの温度である水素風呂に足のつま先を入れ、徐々に深く入れる。その間に肌に吸い付くように、しゅわしゅわ、パチパチッ……、と控えめな音をたてながら、絡みついてくる微粒子の水素泡。
皮膚から伝わってくるこの感覚が、なんとも言えない解放感と楽しさを味あわせてくれる。
そして、肩より少し低めまで入れ深い溜息が出てしまった。
「……やっぱり、取材の後と案件話の後はこれが限るよ。本日もお疲れ様でした、僕」
気持ち良さに、思わず独り言を漏らす。これは誰も居ない状況だからできることだ。
だが、ここからが本題である。
今だにシゴトの処理するあたって【共通点】が見つかっていない現実。
(うーん、どうしたものか……。まずは、状況整理しないとな)
掌を組んで、腕を天井に向けて引っ張るように背筋を伸ばす。そして静かに目を閉じ、元に戻した。そして首から下全体を湯に浸かり、宇宙は生きている実感を噛み締める。
先程の今回のシゴト材料を思い出そうと、奥底に保管した記憶の一部を掘り返す。
(今回の派遣場所は……、この日本と別である平行線世界〈空無の間〉かぁ。
そんな、世界があるなんてなぁ……、知らなかったよ。さて……)
⚪︎派遣された三名は、〈この日本〉の各地で死体として発見された。
⚪︎三名の死体は、〈衰弱死〉。
⚪︎穏やかな笑顔のままで発見された。
⚪︎そして各自握りしめていた、乱雑な文字で記載執筆されたダイイング•メッセージ。
ー 天国 ◼️鬼 吸う 図書館の◼️◼️ 涙 ー
の内容で記載されていた。
(……この肝心な所が、滲んで読めなくなっている文字)
〈天国 ◼️鬼 吸う〉、何の鬼を吸うんだ……?状況の話から考えて……栄養を吸うのか?それとも、血なのか??
━━━いや、その前に……〈何の〉鬼か、が不明だ。
いや!どのみち、穏やかな笑顔のままでは死はないな。苦痛の表情にならなければ、おかしい……!
そして、〈図書館の◼️◼️ 涙〉。
図書館内にある備品なのか?それとも、〈司書〉??
もし、〈司書〉だったら【涙】はどういう意味だ?
いや!ちょっと待てよ……、室内の隠された扉の鍵というパターンかもしれない……!
……
…………
………………
(コレだけじゃ、策が練られないなぁ……。それだったら……)
手のひらを水面に置き、中指の腹で上下に数回叩く。無意識に出た彼の癖。
宇宙は、考え事をしている時にいつも出る行動だ。コレをする事で不思議と絡まった糸が解けるように思考が纏まる。
そんな中、指の腹で叩いている最中に湯に波紋が生まれた。叩いた箇所からそれが内側から外側へゆっくりと広がっていくのを、ーじっ……、と見つめる。
ふと、