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学校で一番可愛い女の子に婚姻届け持参の告白をされたけど、怪し過ぎるので警戒してみる。あれ? もしかしてただヤンデレなだけ
学校で一番可愛い女の子に婚姻届け持参の告白をされたけど、怪し過ぎるので警戒してみる。あれ? もしかしてただヤンデレなだけ
リアルソロプレイヤー
現実世界ラブコメ
2025年05月26日
公開日
3.7万字
連載中
高校へ入学して、一週間が経ったある日。柊緋色(ひいらぎひいろ)は告白された。相手は既に学校で一番可愛い女の子の立ち位置を獲得した同級生、姫柊姫(ひめらぎひめ)。しかも告白の時に彼女が手にしていたのは、婚姻届け。最初はその行動が怪し過ぎて、姫が誰かに頼まれて自分を騙そうとしているのではないか。そう考えていた緋色だが、彼女の可愛い仕草を目の当たりにして、思わずOKをしてしまう。 その次の日から始まる姫の猛アタック。 家まで迎えに来たり、手作りのお弁当を持って来たり、軽々と学校でキスを迫って来たり。子供の頃から姫のことが好きな緋色にとっては、ドキドキの連続で。さらに時々、姫は場の空気を凍りつかせるようなことを平然と口に出したりする始末。 「夫の食事管理も妻の務めですから」 「私の『緋色君とのラブラブ予定帳』にはそんな予定ありません」 「盗聴器は何台までOKですか?」 「では私は緋色君の飲みかけを所望します」 カクヨム様で作者が掲載中の作品『学校で一番可愛い女の子に告白されたけど、絶対嘘告白だと思うので警戒してみる。あれ? もしかしてヤンデレですか?』の改稿版です。要望があれば、こちらでも改稿前の作品を公開するつもりです。

プロローグ

プロローグ 学校で一番可愛い女の子に、婚姻届け持参で告白された件


 高校へ入学して一週間が経ったある日。僕は一通のラブレターで呼び出されてた。

 これから僕が向かうのは校舎裏。告白のド定番だ。

 普通なら嬉しいはずのこんな状況。だけど僕の気分はやや落ち込み気味。

 理由は考えるまでもない。下駄箱に入っていたラブレター。それが偽物のラブレター『ニセレター』だとわかってるからだ。


 根拠はもちろんある。それは差出人の名前。

 ラブレターには『姫柊姫』と書かれていた。

 でもその女の子は僕にラブレターなんて出さない。

 だって今や学校で一番可愛い女の子なんだよ。それも入学してたったの一週間で。


 どう考えても有名税で、名前を使われたに決まってる。中学の頃も全く同じことがあったし。その時も差出人の名前は姫柊さん。でも結果はクラスの男子と女子のイタズラ。今や軽いトラウマものだよ。


 そもそもよく考えればわかる話なんだよね。

 相手は中学卒業までに五〇〇近い告白をされた猛者。しかも女子からは『プリンセス』ってあだ名で呼ばれてたし。

 まあ男女問わず優しくて、成績もいいのにそれを鼻に掛けないお嬢様。

 人気が出ない方がおかしいよね。

 だからこそ怪しいんだけど。


 そんな子が僕に告白?

 確かに小学生の頃、僕らは友達だった。でもそれは小学校低学年の話。

 今じゃすっかり交流も減って、精々廊下ですれ違った時に世間話をする友人B。

 そんな相手に学校一の可愛い女の子が、ラブレターなんて送るはずがない。

 僕は頭の中で見知らぬイタズラの主を殴るイメージをしながら、校舎裏へ向かう。


   ***


 目的地の校舎裏は閑散としていた。

 そりゃあそうだよ。まだ新学期が始まったばかりだもん。

 流石に学校の告白スポットだとしても、今はまだ正式に機能していないよ。

 だけど既に先客がいて。というか雑草が生えている校舎裏に一人の女子生徒の姿が。

 それも僕が近づくにつれ、見る見る顔が赤くなっていく。

 その一方で僕は軽い混乱状態に陥っていた。

 だって僕の目の前に立つのは――


「き、来てくれてありがとうございます‼」


 震える声と真っ赤な顔。

 それでいながら、嬉しそうに満面な笑みを浮かべる女の子。

 そこに姫柊姫は立っていた。

 長い黒髪を風に靡かせ、小柄な体躯にはそぐわない大きな胸に手を当てて。

 整った顔立ちの幼い顔で僕のことをジッと見つめていた。


 そんな彼女の黒い瞳に映る僕の姿。

 白い髪に赤い瞳。中肉中背でやや童顔な顔つき。

 髪と瞳の色以外、特に特出するべき点の無い男子生徒。それが僕――柊緋色だった。

 それにしてもなんで姫柊さんが?


「そ、その……今日はお忙しい中、突然呼び出してしまい申し訳ありませんでした‼」


 ペコリと綺麗にお辞儀をする姫柊さん。

 やっぱりお嬢様だ。お辞儀一つとっても綺麗な動きだと思う。

 いや、考えるべき点はそこじゃなくて。

 どうしてここに姫柊さんがいるんだろう?


 僕の予想だと、高校デビューで浮かれたクラスメイトがいるはずなのに。ここには姫柊さんと僕しかいない。つまり姫柊さんが僕を呼んだ張本人? だとするとあの手紙も本人の直筆?

 ……まだそうと決まったわけじゃないよね。

 姫柊さんも騙されて――


「…………」

「…………」


 僕を見つめる姫柊さんの目が不安を訴えていた。下ろされている両手の指先だって微かに震えている。それなのに視線は真っ直ぐに僕を捉えようとしてる。それを見て、僕はなんとなく理解した。自分の大きな間違いに。

 どうして僕はあのラブレターを――


「でも。ずっと緋色君に伝えたかったことがあるんです‼」


 ――最初から偽物だって決めつけたんだろう。

 姫柊さんの綺麗な声が僕の鼓膜を叩く。

 それと同時に僕の中にあった、悪い考えは粉々に砕かれた。

 僕にはどう考えてもこんなに必死そうな女の子が、誰かを騙すなんて考えられない。


 そもそも僕が知る彼女は誠実で優しい女の子。人気過ぎるが故、本人も知らないうちに利用されることもあるけど、姫柊さん自身は無害だ。仮に彼女が当時のイタズラを知っていたら、自分から進んでやめさせようと動いていたはず。姫柊姫はそういう女の子だ。友達だった僕が言うんだから間違いないよ。


 つまりイタズラっていうのは僕の早とちり。

 なるほど……でもだとすると疑問が一つ。

 もしかして僕、これから告白されるの?

 それも学校で一番可愛い女の子に?


 ……reality?

 数少ない覚えていた英単語。

 それを思わず心の中で呟くほど僕は混乱していた。

 だって相手はあの姫柊姫なんだよ⁉

 僕みたいなバカで釣り合いなんて取れないよ‼

 僕は胸を抑えて軽く深呼吸する。

 そして順序だてて整理していく。


 大前提として僕は姫柊さんのことが好きだ。

 それも今も続く僕の初恋相手として。

 もし仮にだよ。そんな相手から告白されようものなら……。


「あの‼ 緋色君‼」


 必死になって心を整理している間にだった。

 遂に姫柊さんが、決心を固めた目で僕を見てくる。

 でも僕は『告白される』というあらぬ妄想の所為で、思わず顔を逸らしそうな状況だ。

 ダメだ。今顔を逸らしたら、絶対に話がここで終っちゃう。

 ちゃんと最後まで聞くんだ。僕が期待する言葉じゃなかったとしても。

 僕が決心を固める中、吹奏楽部の演奏が校舎に響いた。


「私と結婚を前提にお付き合いしてください‼」


 それはあまりにも予想外過ぎる告白だった。

 ……今、結婚って言わなかった?

 頭が真っ白になった僕とは対照的に。

 言えた喜びに打ちひしがれる姫柊さん。


 僕は無言のまま、数回瞬きを繰り返した。

 だけどこの夢、なかなか覚めないぞ。

 だとするとやっぱり――

 いくら何でも本気過ぎるよ‼ 本気でも嘘だって疑われるレベルの告白だよ‼

 でも誠実な姫柊さんらしいし、僕も自然と嘘だって思ってないんだよね。

 それにしても今の告白。告白っていうよりもほぼプロポーズ――


「……ダメ?」


 上目遣いの可愛い顔。

 背が僕よりも低い分効果的だ。

 おかげで今、僕は雷に打たれたような気分。

 なんておねだり上手なんだ。

 しかも普通に可愛いかったし。

 気づけば僕は。


「ダメジャナイヨ」


 棒読みでうっかり答えていた。

 あんなの反則だよ。

 上目遣いで「ダメ?」なんて聞かれたら。

 正常な男子高校生ならOKしちゃうよ‼

 自分の浅はかさを嘆く僕。

 そんな僕とは対照的に。


「ほ、本当ですか?」


 姫柊さんは震えるほど喜んでいた。

 さらに僕が首をゆっくりと縦に振ると。

 さっきまで暗かった表情がパァ~と笑顔に変わってく。

 それにしても、姫柊さんが僕のことを好きだったなんて。僕、全然知らなかったよ。


 僕は姫柊さんのことが好きだ。何よりも初恋の相手だからね。

 そして姫柊さんも僕のことが好きらしい。それも告白が成功しただけで、顔をクシャクシャにして笑うほど。

 こうして僕と彼女は恋人同士に――


「では早速こちらの記入をお願いします」


 恋人という言葉に浮かれたのも束の間。

 笑顔の種類が変わった姫柊さんが、僕に一枚の紙切れを差し出して来る。


「はい?」


 僕が渡された紙切れ。そこには『姫柊姫』の名前が記入されていた。

 それ以外にも姫柊さんの両親と思える名前。

 さらには僕の両親の名前まで書かれている。

 そこまで見て、僕はようやく理解した。


 その紙はとても薄くペラペラだけど、僕にとってはたぶん地球よりも重い。

 その証拠に今、背中からは変な汗が流れ。学校一の美少女と付き合えるというドキドキとは、別のドキドキが僕を襲っていた。

 ようやく現実を直視した僕は、軽く深呼吸してから尋ねる。


「こ、これってまさか――」

「婚姻届けです」


 わからない‼ 僕には彼女が何を言っているのか、わからないよ。

 そもそもこの状況もわからないし。どうして僕の手の中に婚姻届けがあるのかもわからない。とにかくわからないことだらけだ。今になって、嘘の告白であってくれと願わずにいられない。


 そもそも普通、告白に婚姻届けなんて持参するだろうか。新手のいじめにしてもやりすぎだよ、夫の欄以外記入済みの婚姻届けなんて。その所為で一瞬にしてわからなくなったじゃないか。これが嘘の告白なのか、それとも本気の告白なのかが。


「とりあえず姫柊さん。少しだけ時間を――」

「明日までに書いてきてくださいね」


 学校一の女の子が自分だけに向ける笑顔。

 そんな夢みたいな状況なのに、僕は首輪をつけられた気分になった。


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