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アオハルコート
アオハルコート
リアルソロプレイヤー
現実世界青春学園
2025年05月26日
公開日
6.6万字
連載中
子供の頃、母さんに連れられて見に行ったバスケットの試合。 そこで俺はコート上に居たあいつに強く惹かれた。 誰よりも走っていて、誰よりもシュートを打っていて、誰よりも楽しそうなあいつに。 気がつけば完全に憧れていて、完全に好きになっていた。 あれから数年。俺も彼女に惹かれるようにバスケをはじめ、今では全中2連覇+2年連続MVPに選ばれていた。 けれど幼馴染としてあの女の子――秋月フユと多くの交流を重ねてきたにも拘わらず関係はほとんど前進していない。 俺と彼女は未だに『幼馴染のただのバスケ仲間』のままである。 傍から見れば、全然カップルに見えない『身長120センチ以下』の俺と、『身長170センチ』のフユ。 身長差はありすぎて、心の距離は近すぎる俺たち。 それ故に俺――夏陽ハルの春はまだまだ遠く。 バスケ青春恋愛ストーリー開幕。

プロローグ あの日の光景と最後の景色


 小学生の頃、母親に連れられてバスケットの試合を見に行ったことがある。

 試合会場には母と待ち合わせをしていた母の友人が。


 どうやら、その人の娘が出る試合を見るために集まったらしかった。

 娘の歳は俺と同い年。


 最初は興味もなくスマホゲームに夢中だった俺だが、その手はすぐに止まった。

 コート上に立つ十人の選手。その中の一人につい見惚れてしまったからだ。


 誰よりも走って、誰よりもシュートを打って、誰よりも楽しそうな女の子。

 その姿がすごく格好いいものに見えた。

 気づいた時には、無意識にこう思っていた。


 自分もあんなふうになりたい、と。


   ***


「だからってやりすぎだよな。ここまで来ちゃうのは」


 中学三年の夏。俺――夏陽なつひハルはバスケットボールをしていた。

 舞台は全中の決勝戦。今年で二年連続の決勝進出だ。

 そして今は勝つか負けるかの瀬戸際。

 前半から飛ばし過ぎた所為で足腰はガタガタ。

 正直もう帰って寝たい。


「……ふう~」


 チームメイトが必死に走る中、足を止めて軽く息を吐く。

 俺のシュートポジションはコート全体。

 そのため前半は厳しかった俺へのマーク。

 それが今のガス欠状態を見てかなり緩んでいた。


 本来ならすぐにでも交代させるべき状態だと思う。

 現に俺が監督ならそうしてる。一方で監督が俺を下げない理由もわかるんだ。

 もしもここで俺を下げたら、チャンスが来た時に生かす可能性がグーンと下がる。

 だから俺は今、チームメイトに全幅の信頼を寄せていた。

 全幅の信頼を寄せて待っていた。その時が来る瞬間を。


 得点に目を向ければ、残り3点で追いつかれる。

 さらに残り時間はもう10秒しか残されていない。

 相手の精神を完全にへし折るなら、ここで3点が必要だ。


 6点ならスリーポイント2つ。この状況でそんなこと不可能に近い。

 さて、チームメイトはちゃんと俺の悪い思惑を理解しているのやら。


「信頼してるぜ、相棒」


 体力切れで意識が朦朧とする中、俺は無意識にシュート体勢に入ろうとしていた。

 それも場所は左サイド寄りのハーフラインギリギリ。そこで究極の矢を放つ準備をしていた。

 膝を柔らかく曲げ、いつものように飛ぶ。


 その刹那。パシッと慣れ親しんだものが手に収まった。

 縫い目の掛かり具合もバッチリ。一番入る確率が高い位置だ。

 これで入らなかったら、全校生徒の前で告白でも何でもしてやるよ。

 そうして放ったシュートは、この試合で最も綺麗な弧を描いてゴールを貫いた。


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