スライム。
昼間は草原で日向ぼっこをして過ごす液状丸型の小型モンスターだ。
主食は虫やネズミなどの小動物。
日向ぼっこの他には特にやることもなく、その体をプルプル震わせている。
そして夜になると住処の森・
スライムは何の素材にもならないし、ほとんど水分なので食べられる箇所もない。
常にプルプル震えているだけの人畜無害なモンスターだ。
しかし、近年冒険者の増加に伴い――冒険者の練度上げの為にクエストが発行されているせいで――草原から姿を消しつつあった。
スライム? ああ、絶滅してもいいんじゃね? 何の役にも立たんし。むしろ俺らの経験値になれてラッキーじゃん??
↑これが世間一般の冒険者たちの反応である。
「こんな世の中で良いわけがない!!」
夜中の森の奥でスライムたちの集会が行われていた。
集合体恐怖症の人間が見たら卒倒しそうなほど、赤青緑紫オレンジ……様々なスライムが所狭しと重なり合っている。
「故に、このスライムクイーンのクーデレはご近所の森のゴブリンやリザードマンたちに冒険者対抗戦線を築こうではないかと打診した! 協力して人間に立ち向かおうと! しかし……奴らは私の打診を断わったのだ!!」
中央の切り株の上にピンク色で王冠のような頭をしたスライムが力強く演説を続ける。
傾聴していたスライムたちが『愚かな』『なんということだ』『救いはないのか!』『神よ……』と、言わんばかりにプルプルとその体を震わせる。
切り株の上のクーデレは不安に文字通り揺れるスライム達に「静粛に」とよく通る声音で呼びかけた。
「安心するがいい皆のモノ。皆のことはこの私、クーデレが必ず守る。約束しよう」
力強い宣言に、スライム達は歓喜に体を震わせる。飛び跳ねて喜ぶスライムもいた。
が、そんな中でも安易に飛び跳ねたりしない冷静なスライムも一定数いる。
『約束するって、具体的な策はあるのクーデレ様?』と緑のスライムがゆっくり小刻みに疑い震えていた。
勿論、スライムクイーンであるクーデレはそんな臣民の声にもしっかりと耳を傾ける。
「不安だろうそうだろう。しかし安心するがいい。私には明確なビジョンがある。具体的な策がな。では、皆の者に見せようではないか」
彼女はみずみずしいピンク色の体を震わせた。
「スライムッ、チェーンジ!」
クーデレが叫ぶと魔法陣が彼女を包み込んだ。
夜の闇すら切り裂くまばゆい光にスライム達が『まぶし~!!』と体を震わす。
輝きが収まると、切り株の上にはピンク色のスライムの姿はなかった。
代わりに冒険者ギルドの受付嬢じみた服を着たピンクと白のグラデーションの長い髪を下ろした女が立っていた。
『……クーデレ様?』『クーデレ様が女の人に』『なんで?』『我々を見捨てるのですか!?』
ざわつきプルプルするスライム達。
「またまた安心するがいい皆の者。私の家族はお前たちだけだ」
クーデレは右手を上げて静まれと彼らに促し、咳ばらいをした。
「皆も知っての通り、冒険者はギルドからクエストを受けて我々を狩りに来る。逆に言えばこのクエストを受けさせなければ我々の身の安全は保障されるという事だ。つまり……」
クーデレの一挙手一投足にスライム達はプルプル震える。
「受付嬢としてギルドに潜入し、スライム討伐のクエストをやめさせればいいのだ!! ついでに、倒せそうな冒険者は闇討ちをして数を減らす! スライム10000匹の強さを誇り、強大な魔力も持って生まれたこの私に不可能はない!!」
クーデレはスライム達に宣言する。
そう、100年に一度現れるスライムクイーンとして生まれた彼女にはスライム一万匹の強さと魔力が生まれつき備わっていた。
だから人の姿に変化する【チェンジ】の魔法を使えるし、【ファイヤ】や【アイス】【サンダー】などの初級魔法が使えないはずもない。また中級魔法も適宜勉強中だ。
彼女は初心者冒険者程度に後れはとらないと自負していた。
並みの冒険者なら魔法を使わずとも体術のみで勝つことができそうだ。
だからこそのこの自信、この余裕。
『わああああ!』『すごいやクーデレ様!!』『天才!天才!』『流石神に愛されしスライム!!』『ゴッドスライム!!』
クーデレの貫禄にスライム達は飛び跳ねて喜んだ。
もはや誰も彼女の言葉を疑いはしなかった。
(私はかならず成し遂げる。理不尽なこの世界から……スライムを守るのだ!)
「私は今日から受付嬢だ……!!」
クーデレは頭上の月に拳を突き上げ宣言した。