クーデレは本当の意味で≪ロウヘイノヤカタ≫の受付嬢になった。
身近なスライム達の安全は保障されることになったが、まだまだこの世は理不尽で〖スライム討伐〗のクエストが消えることはないだろう。
ただ、いつか、きっと彼女はやり遂げる。
でも今は……。
「うわ~師匠! なんかおいしそうなモノがいっぱいよ! それに面白いものも!」
「サーリャ。ここには中古の魔導耕運機を買いに来たのだろう? 目移りしてると所持金が尽きるぞ?」
と、言いながら二人は買い食いしたり、武器や防具の店を見たり、服を選んだり……市場の楽しい雰囲気を味わいながら目的の魔導耕運機専門店にたどり着いた。
「ごめんくださーい……」
「あいよ! なんだい? あ? 若い姉妹じゃねーか! なんでこんなジジババ臭えところに……」
「いえ、敬老の日のプレゼントに中古の魔導耕運機をと……」
やり取りをするサーリャの後ろで、クーデレは今しがたおじさんが言った姉妹と言う言葉がひっかかる。
(姉妹、つまり家族……私にとって《ハジメ・ノ・ムラ―》や≪ロウヘイノヤカタ≫の皆私にとっては家族、それとも仲間か?)
「よし、これがいいや! 3万ギルニーちょうどだし、軽くて小回りも聞くし……ん? どうしたの師匠??」
「いや、なにも……良いのが見つかってよかったなサーリャ」
頭をなでてやるとサーリャは嬉しそうに笑った。
「うん……って、子供扱いしないで師匠!! 撫でるな!」
町に戻る頃には夕方の一歩手前の時間だ。
陽ざしが柔らかで優しい。
クーデレは魔導拡声器を持って、ギルドの前で呼びかける。
「《ハジメ・ノ・ムラ―》の皆様、及び≪ロウヘイノヤカタ≫の冒険者の皆様お集まりくださいませ」
なんだなんだ? とギルドの皆が集まり、ジジが奥から出てくる。
「何事じゃクーデレさん? 今日はギルドは休みのはずじゃろ?」
「ちょっとした催しですマスタージジ。それではあちらをどうぞ」
受付嬢スキル・営業スマイルを浮かべてギルドの影を指さす。
そこから魔導耕運機を動かしてサーリャが現れた。
「カッカッカ! なんだなんだぁ?」
「おやまぁまぁまぁ……」
「魔導耕運機じゃねーか」
「型落ちだけどいいやつだぞ?」
「どれどれ?」
クーデレの傍まで魔導耕運機を動かしてきたサーリャは停めて、クーデレに笑みを向ける。そして、魔導拡声器を使って集まってくれた老冒険者たちに告げた。
「今日は敬老の日よ! いつも畑仕事をがんばる皆に耕運機をプレゼントしてあげる!! 泣いて喜びなさい!!」
瞬間、老冒険者たちは笑顔を浮かべ、サーリャの頭をよしよし撫で始めた。
ジジなんかは「おおう、サーリャ。なんと優しい子なんじゃお前は~~」と大号泣。
「やめなさいよ! あんたたちの為じゃないんだからね! あ、頭を撫でるなぁ!!」と、無理なことを言いながら幸せそうに笑うサーリャと、喜ぶ老冒険者たちを眺めてクーデレは自然と頬をほころばせていた。
(……そっか、仲間も家族みたいなものだな。どっちも大切でどっちも愛おしい)
「師匠~、そろそろたしゅけて……頭撫でられすぎて禿げちゃうわ!!」
「ふふ……弟子なら自分でどうにかするんだなサーリャ」
史上初のスライム受付嬢の休日は穏やかに過ぎてゆくのだった。