目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第14話

「【ホーリーデス・シ・ニサラーセ】!!」


 しわがれた詠唱と共に、上空が光り輝き、幾千幾万もの光剣がスライムの森に降り注いだ。


 雨のようなそれは不思議なことにスライムには当たらず、スライムをイジメるゴブリンたちだけに集中。ゴブリンたちは全て声も上げずに、また骨も残さずチリとなった。


 ただ、一体を除いて。


「な、ごふっ……なにが、起きた、の」


 ゴブリンクイーンだけは体を光剣に貫かれながらも、人の形を保っていた。


「師匠!!」


 サーリャがクーデレを抱き起こして抱きしめる。


「サーリャ……どうして、ここに……それに、皆さんも」


 彼女の後ろに筋肉だるまの爺さんや、金の鉞を担いだ爺さんと銀の盾と鎧でガチガチに身を固めたお婆さん、のんべぇサムライに、【ホーリーデス・シ・ニサラーセ】を唱えたのだろうクワを杖として扱う魔法使いのお婆さんと、その他の老冒険者たちの皆さんがいた。


「なんで……」


 ギルドマスターのジジはサーリャに抱き起こされたボロボロのクーデレの傍らで膝をつき、その頭をクマのような掌で優しく撫でた。


「よく、一人で戦ったね。さすが≪ロウヘイノヤカタ≫の受付嬢じゃ」


 今のボロボロのクーデレは受付嬢の形を保っているが、ところどころ元のスライムのピンクの表面が浮き出ている。


所詮【チェンジ】は人の真似事。外的要因ですぐにぼろが出る仮面と一緒だった。


「私は、本当は受付嬢なんかじゃありません……ただちょっと人間のフリができるだけのスライムなんです」


「サーリャちゃんから聞いとるよ」


「そうそう」


「全部知っとるさ」


 みんなが頷いていた。


(……そうか、全部、バレちゃってるんだ。なら)


 クーデレは自力で立ち上がり、背後のスライム達に来るなと手で制しながら《ハジメ・ノ・ムラ―》の皆さんに向き直った。


 そして、焼け焦げた大地に膝をついて土下座をする。


「お願いします。どうかスライムは。私の家族だけには手を出さないでください。私はどうなっても構わないので……どうか……」


『クーデレ様……』『そんな』『うう……』『ボクたちはなんて』『無力だ……』


 女王の命令は絶対だ。


 スライム達はその命令を忠実に守り、クーデレを見守る。 


 そんななか、サーリャが土下座をするクーデレの目の前に仁王立ちした。


「師匠、顔をあげてください」


 ゆっくりとサーリャを見上げたクーデレ。


 その頬をサーリャは思いっきり引っ叩いた。


 パアン!!


「…………え?」


 クーデレは唖然。


 村の人たちも一部「おいおい」「そりゃないだろ」「ええ……」と困惑。


 しかしサーリャはクーデレに尋ねる。


「どうして師匠が頭を下げる必要があるの?」


「だって、全部バレちゃったって……私は皆を騙していたモンスターなんだぞ? スライムを守るために受付嬢になって、クエストを燃やして、闇討ちを考えて……」


「たしかに闇討ちは謝る必要があるかもしれないけど……でも師匠はスライムの家族を守るためにやったんでしょ? てか、闇討ちされた人もいないし……。謝る必要あるの?」


 うんうん、とのんべぇサムライがなんか頷いていた。


「それはモンスターは人間の敵だから……私は皆の敵で」


 サーリャは言いよどむクーデレにかみつかんばかりに顔を寄せた。


「馬鹿言わないで!! モンスターだから敵? 家族の為に何かしたいって言う私を助けてくれたのは師匠なんだよ!? 師匠は私達の味方でしょ! だから謝らないで!! 師匠は師匠なんだから!」


「サーリャ……」


 必死に訴えるサーリャを茫然と見上げるクーデレ。


 そこにジジが咳ばらいをしながら割り込んだ。


「おほん……。君の事情はワシら全員聞いたのじゃ。……そのうえでなんじゃが。ワシらはスライムを討伐なんてせんよ。約束しよう」


「マスタージジ……」


 そして、のんべえサムライも革袋の酒を飲みながら言った。


「カッカッカ! 家族の絆には負けるかもしれねーけどよ? クーデレちゃんはもうこの町の受付嬢で、大切な仲間なんだぜ?」


 その言葉にみんなが頷いてくれる。


 クーデレは焼け焦げた地面の土をぎゅっと握った。


(私は、馬鹿だ……こんなにいい人たちに囲まれていたのに、壁を作って、敵だと思い込んで……)


 ぽろぽろと地面にこぼれる温かな涙。


「師匠、だからね? 師匠さえよければこれからも《ハジメ・ノ・ムラー》で受付嬢をやってほしいの。どこにもいかないで……」


 サーリャは鼻をすすりながら涙目で手を差し出してきた。


「いいの? こんなスライムの私なのに……」


 その時だった。


「はん! 人間とモンスターの共存なんてうまくいくわけないでしょ!! おぼえてなさいスライムクイーン! あんたもあんたの大切な者もそのうち全部ぶっ壊してやる!!」


 ヒャーハハハ!! とゴブリンクイーンが傷ついた体を引きずりながら森の奥へと走っていく。


「あいつ死んでなかったのか……!」


「カッカッカ! ぶっ切り裂きに行くぜ!」


「【ホーリーデス・シ・ニサラーセ】で死なないなんて珍しいモンスターねぇ。ウフフ」


 ゴブリンクイーンを≪ロウヘイノヤカタ≫の冒険者たちが追いかけていく。


 ジジが何かに気付いたように手をポンと叩いて、クーデレに向き直った。


「さあ、クーデレさんや? 受付嬢権限でワシらに緊急クエストを発令してくれないかのう? ただし、権限を使う以上明日からもウチで働いてもらうことになるが」


「え? あの……」


 突然の申し出に困ってしまうクーデレ。


 ジジの提案にサーリャが満面の笑みを浮かべる。


「それいいわね! 討伐対象はあのゴブリンクイーンでね! さ、師匠! ギルドマスターがそう言ってるわよ? どうするの??」


「サーリャ……私は……」


『クーデレ様! あなたのお好きなように!』『ボク達、良いと思うな!』『幸せになっていいんだよクーデレ様!』『やりたいように!!』


 スライム達までもそんなことを言う。


 家族にまで言われてしまえばさすがのクーデレも覚悟を決めるしかなかった。


 彼女は一度深くため息をつき、受付嬢スキル・営業スマイルを浮かべた。


「わかりました。受付嬢の任を謹んでお受けします! それでは緊急クエストを発令します! 〖ゴブリンクイーンの討伐〗です。皆さん、よろしくお願いいたします!!」



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?