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第27話 おこしやす、修学旅行は事件の香り7 :最終夜、告白は英語? 京ことば?

1. 神戸ハーバーランド、夜景クルーズへ


 修学旅行三日目、夕刻。

 一行は神戸港に到着した。海沿いに立つポートタワーが赤く輝き、街の灯りが海面に反射してダイヤモンドのように瞬く。


「うわぁ……ここ、映画のワンシーンみたいや」


 鸞は金髪を揺らし、宙を見上げる。あずさも隣でそっと息を呑んだ。


 今夜はクラス貸切のナイトクルーズ。大型デッキ船「ルミナス・セイラー」は二階建て、レトロな真鍮の手すりと木甲板がクラシカルな雰囲気を醸している。


 乗船するとすぐ、船内ホールでプチパーティーが始まった。ビュッフェには神戸牛ミニバーガー、淡路玉葱キッシュ、明石ダコのカルパッチョ――まるでホテルの宴会だ。


「え、修学旅行でこんな豪華なケータリングあり!?」


「うちらの学園、やるときはやるんやなぁ」


2. サプライズ英語スピーチ


 パーティー中盤、国際交流担当の新任英語教師・ロバート先生が壇上に立った。

 生粋の英国紳士、モヒート片手に生徒へ向けて笑顔を浮かべる。


「Ladies and gentlemen, thank you for sharing this wonderful journey. I’m truly impressed by your energy, your kindness, and especially your language skills.」


 クラスがザワつく。先生はグラスをあげた。


「In particular, let me praise Miss Ran Hyōno who solved every language issue for us――and Miss Azusa Miyako, whose courage to speak English shines just as brightly.」


 スポットライトがふたりに当たり、拍手が巻き起こる。

 鸞は照れ笑い、あずさは頬を染めながらも胸を張った。


「So, let’s toast to friendship beyond words! Cheers!」


「Cheers!」


 グラスが交わる音、オレンジジュースとノンアル・シャンパンが泡立つ。


3. 甲板、夜風、そして二人きり


 パーティーがひと段落すると、生徒たちは船外デッキへ散った。

 潮風はややひんやりし、神戸の夜景が港全体を宝石箱に変える。


 あずさと鸞はポートアイランド側の静かな手すりに並んだ。

 遠く観覧車がゆっくり回り、クラシックが小さく流れている。


「……綺麗やな」


「はい……」


 しばし無言。波が船体を叩くリズムが心臓の鼓動みたいに重なる。


「なあ、あずささん」


 鸞がゆっくり口を開いた。

 英語と京ことば、どっちで告げるか迷っているように、瞳が揺れる。


「えっと……I… I think I…」


 あずさは優しく笑い、首を振った。


「……英語でも、関西弁でも、京ことばでも。

 うちは全部、ちゃんと受け止めますえ」


 鸞は息を飲み、そして――


> 「ずっと好きやで。ほんまに。」




 簡潔で、まっすぐで、温かな関西弁。

 それが鸞の選んだ“本当の言葉”だった。


 あずさの目に涙が光る。

 夜景が滲んで、代わりに鸞の笑顔だけがくっきりと見えた。


> 「……I think I love you, too. ずっと、隣におりたいどす。」




 英語と京ことばのハイブリッド告白。

 ふたりの語彙がひとつの想いに重なった瞬間だった。


 鸞はそっと手を差し出し、あずさが重ねる。

 指先が触れたとたん、船内スピーカーからジャズバラードが流れ、まるで映画のエンディング。


4. クラスメイトの目撃&お約束


 しかし――


「おーい! そろそろ集合写真撮るでー!」


 陽菜の元気な声がデッキに響く。

 振り返ると、クラスメイトがスマホをずらりと構え、フラッシュの準備万端!


「え、今の絶対撮られた……!」


「もうええわ! 幸せは隠されへん!」


 結局、デッキで撮った集合写真のセンターには、手を繋いで照れるふたりの姿がばっちり収められた。


5. 翌朝、修学旅行レポート再び


 帰京後。ホームルームで“修学旅行レポート”が返却される。

 国語教師が怒りと笑いの混ざった表情で答案を掲げた。


「瓢及! また英語で全文書くなと何度言えば!」


 教室大爆笑。


「だって英作文の方が感情乗るんやもん!」


「あずさは許されてるんどすか?」


「あずさは“英日併記”で努力の跡が見える!」


「ひどい差別やぁ!」


 喧噪の中で、ふたりはこっそり視線を交わし、微笑んだ。


 国語も英語も関西弁も京ことばも――

 どの言葉でも届く、“好き”という気持ち。

 それを胸に、彼女たちは次の季節へ歩き始める。



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