1. 道頓堀で粉もん天国
修学旅行二日目の朝、女子六人組は大阪・難波に降り立った。
アーケードを抜けると、ど派手なグリコ看板とタコ焼きの香りが迎えてくれる。
「うわぁ、これがテレビで見る“おおさか”どすか!」
「あずささんの京都イントネーションが可愛すぎる件」
まずは朝タコ焼き。屋台の兄ちゃんが鉄板を回す手元を見て、鸞が英語で実況を始める。
「Look at this professional turning! Perfect 180-degree rotation!」
「ええから早よ食べろ!」
アツアツを口に入れた瞬間、全員が「ハフッ!!」と跳ねる。ソースと青のりの香りでテンションは急上昇。
2. ナンバのナンパは勢いが違う!?
心斎橋筋を歩き出して数分。片手にクレープ、もう一方にイカ焼きを持つ陽菜が叫んだ。
「ちょ待って! なんかイケイケ兄ちゃんが近づいてくる!」
サングラス+派手シャツ三人組。
「お嬢ちゃんら、どこから来たん? 良かったら案内したげよか?」
お決まりの台詞に、沙耶香が「出たぁ~」とヒソヒソ。鸞が一歩前へ。
「Sorry, we already have a perfect guide――Google Maps♪」
「グ、グーグル……?」
「それでもご案内させて?」
「せやなぁ……ほな**“大阪城の歴史を英語で5分プレゼン”**できたら考えたるわ!」
「ムリムリムリ!」
ナンパ兄ちゃん撤退。周囲の観光客から拍手が起こる。
「さすがナンパ撃退女王!」
「あずささんも次いってみよか?」
「そ、それは勘弁……!」
3. USJ(仮)でフリーダム迷子
午後は班別行動最大の目玉、**U☆WORLD スタジオパーク**へ。
入場ゲート前、人、人、人! 外国語も飛び交い、テンションと音量がインフレ。
「ハリウッド・ドリームの待ち時間…2時間!?」
「お土産ショップも入場制限!?」
地図を広げた深雪が指示を出す。
「二手に分かれてチケット引換とロッカー確保! 30分後にスヌパレ前集合!」
そこで事件は起きた。
ロッカー前の人波に揉まれ、あずさがふと振り返ると、鸞の姿がない。
「……え?」
一気に胸が締め付けられる。スマホを取り出す手が震えた。
> あずさ:『どこどす?』
> 鸞:『ドラゴンコースター並んでるとこ! どこか分からん!』
> あずさ:『ドラゴンコースター3つあるんどす!』
翻訳アプリが誤変換し、チャットは“竜巻農園にいる”など謎ワードに化ける。
園内アナウンスは英語・中国語・韓国語の連続。情報過多に頭が真っ白。
「まず日本語プリーズ……!」
あずさは泣きそうになりながらも、深呼吸。
耳を澄ませば、周囲の雑踏に混じって――聞こえた。
「AZUSAAAA——!!」
遠くステージ方向、観覧車の下。あの金髪が手を振っている。
人垣をかき分け、息を切らしながら駆け寄る。
「もう……心配したんどす……!」
「ごめん! でも、でっかいゾンビが出てきてテンション上がってもうて!」
「あほ! 次は絶対離れへんと約束どす!」
「Yes, ma’am!」
二人は指切り。周りの外国人カップルが「So cute!」と笑顔で写真を撮っていた。
4. 大阪ナイトは粉もんリターンズ
夜は道頓堀へ戻り、ネオンきらめく川沿いでお好み焼きパーティー。
「自分でひっくり返すん? 怖い!」
「こうや! フリップ・アンド・スライド!」
鸞がヘラ捌きを披露するとプロ並みの円盤が完成。
あずさは京風に九条ねぎを追い打ち。
ソースがジュワッと焦げる匂いに、六人は幸せの溜息。
「今日だけで粉もんカロリー1年分……」
「でも旅はカロリーゼロ理論どす!」
5. 宿へ —明日に続く光—
ホテルの部屋に戻ると、窓からは梅田の摩天楼。
その灯りを見つめ、あずさは囁いた。
「……鸞さん。さっき迷子になったとき、心臓止まるか思いました」
「うちも。あずささんが見えへん瞬間、世界がモノクロなった」
そっと肩が触れ合う距離。
外は賑やかなネオンでも、二人の世界は静かで温かかった。
「明日、神戸も一緒に歩こうな」
「ええ。今度は、ずっと隣に」