和也は望が座っている椅子に近づいて捕まえようとするが、望は椅子を使って交わす。

「遠慮なんかしなくていいからさぁ……腰、痛いんだろ？」

「ま、確かに痛いは痛いけどさ」

「明日に差し支えるぞ」

「じゃあ、痛め止めの薬でいいから……腰揉んでもらうよりそっちの方が効きも早いしな」

「はい……」

　今までふざけあっていたが、望のその言葉でそのやりとりは終止符が打たれる。和也の方は望の言葉で薬を取りに行ってくれたことにひと息吐く望。

「はいよ！」

「ああ」

　和也から薬と水を受け取り、それを口にする。

　そして今日一日、本当に何もなかったようで、そのまま一日を終えるのだった。

　次の日、面会時間が開始された時刻。和也と望がいつものように回診で病棟内を回っていると、雄介の病室の前で一人佇む男性がいた。

「アイツって！？」

　二人同時に声を上げ、視線を合わせる和也と望。

　その男は雄介の病室の前に立ち雄介の病室に入ろうとしているようなのだが、なかなか中へと入る気配はないように見える。たまにスライドドアのノブに手をかけ病室の中に入ろうとはしているが、そのドアノブを離しては頭を振ったりしている。

　和也と望はその人物の存在に気付くと、そっとその男の前へと近づき、

「桜井さんのお見舞いに来たんでしょう？　中に入らないんですか？」

　和也がその男性に声を掛けると、その男はそっから立ち去ろうとしたのだが、その男性の手首を和也がしっかりと掴みその男性は逃げることができなかったようだ。そこで和也は、

「きっと、桜井さんは貴方が来てくれることを待っていたと思いますよ。ずっと、桜井さんは貴方のこと、気にしてましたからね。 貴方が一人で病室に入れないのなら、俺達も一緒に入って上げますから……」