目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

ー記憶ー104

 雄介は仕事の合間を縫って、望の病状を見に行く日々を送っていた。和也との会話を通じて、望の日常は問題ないようで、普通の会話もきちんとできていることが分かっていた。


「まぁな。しかも、今日一日、仕事の合間をぬって望の様子を見に来ていたんだけど、日常的には問題ないようなんだよな。普通の会話もちゃんと出来るしさ」


 雄介は和也に対して、望の様子を報告し、今後の方針を相談していた。和也が問うてきた質問に対して、雄介は少しうつむきながら答えた。


「会話は出来るんやなぁ。ほな、覚えてへんのは人物だけなんか?」

「あ、いや、過去の記憶もなんじゃねぇのか? 少なくとも俺と出会ってからの記憶はねぇ訳だしさ。あとは仕事の方なのかな? そこまでは仕事してみねぇと分からないんだけどさ」


 和也との会話が途切れると、望の寝息だけが静かに聞こえてきる。雄介は和也に別れの挨拶をし、望の病室を後にすることに決めた。


「ほな、望の方もまだ寝とるみたいやし、俺、帰るな……」

「そっか……また、明後日も来るんだろ?」

「ああ、まぁな……」

「それは別に構わないんだけどさ。お前も方も体には気を付けろよ。望ばっかに構うのはいいんだけどさ……自分の体調の方も管理してくれねぇと困るしさ。望がもし回復してお前がいなかったら困るだろ?」


 雄介は和也の言葉に微笑みながら感謝の意を示すと、病室を出て病院を後にした。帰り道、雄介はいつもよりも道のりが遠く感じられ、望が隣にいないことを痛感する。一人で歩くと、どうしても寂しさが募るものだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?