「ん? ただの俺の気まぐれってところかな? スキーの話を一番にしたかったんだけど。今年はマジで俺も行きたかったしさ。それに、スキーとかっていう旅行は気分転換にもなるだろ? 日頃頑張ってるんだから、そのご褒美みたいなもんじゃんか」
「ま、まぁ、そうなんだけどさぁ」
「ま、とりあえず、俺たちの方は風呂借りるな?」
和也は裕実の手首を取ると、お風呂場へと向かって行ってしまう。
再び二人きりになってしまった望と雄介。
「だってさぁ」
「まぁ、確かにそう言われてみれば、たまにはいいか。アイツらがここに居(お)っても。まぁ、いつもよりちょい賑やかになるだけやしな」
雄介はそう言いながら望の手首を引くと、額にキスをする。
「ほな、テーブルの上にあるもん片付けて、和也たちが風呂から上がって来たら、俺たちの方も入るでっ!」
そう雄介は望に向かって笑顔で言ったのだが、望は雄介の顔を押さえ、
「それは嫌だ……」
と、はっきりと否定する望。
「はぁー!? なんでやねん! いつもやったら一緒に入ってるやんかー」
「今日は和也たちがいるから嫌なんだよ」
「そこは望の勝手やんか」
今日の雄介は、何でもかんでもストレートに望に言ってきているような気がする。そんなもんだから望もいい顔はしていない。ムッとした表情で雄介を見上げる。
雄介はそれに気付いたのであろう。慌てた様子で、
「ちゃ、ちゃうって! そういう意味で言ったんとは違う(ちゃう)わぁ」
「じゃあ、どういう意味で言ってんだよ……。つーか、逆に今日の雄介、大丈夫なのか? 熱でもあんじゃねぇのか?」
普段の雄介だったら、そんなことは言わないはずだ。だけど今日の雄介は変なことを連発しているような感じがするのは気のせいであろうか。確かに言葉にはムカッとはするのだが、心配にもなる。
望は自分の額に手を当て、雄介の額にも手を当てる。
「熱はないように思えるんだけどなぁ? 呼吸も至って普通だし」
「せやから、大丈夫だって言うとるやろ? だからなぁ、ただ単に望とイチャイチャできないのが今は不満なだけなんやしな」
やはり今日の雄介は何かが変だ。
「ま、いいか……」
そう望は独り言を漏らすと、
「とりあえず、テーブルの上の物片付けちまおうぜ」
「せやな」
二人は先程まで食べていた料理のお皿をキッチンまで運び、洗い始める。
その時、望はチラリと雄介の横顔を見て気付く。本当に今日の雄介は切なそうな表情をずっとしていた。