「た、誕生日席も知らないのか!?」
その和也の言葉に、望は和也のことを睨み上げる。
望の表情を見て、和也は望が何を言いたいのか理解したのか、一つため息をつくと、
「ゴメン……ゴメン。望は子供のこと、よく知らなかったんだよな。それをバカにした俺が悪かった」
そう言って、和也は望に向かい詫びを入れた。
「とりあえずだな……誕生日席ってのは、俺達が座ってるとこじゃなく、今琉斗が立っている場所のことなんだよ」
和也はそう言うとテーブルの端を軽く叩いた。それを見て、望は珍しく頷いた。
「それで、こういうファミレスにはさぁ、少し高めの椅子があるんだよな。そう、子供用の椅子がさ。だから琉斗はその椅子に座りたいんじゃねぇかなぁーって思ったんだけど……」
和也は琉斗の方に顔を向けると、返事を待つようだ。
「琉斗……どうなんだ? みんなと一緒の席に座るか? それとも誕生日席に座るか?」
和也は、こういうことを大人である自分たちではなく、琉斗に決めさせようとしているようだった。
琉斗は和也に選択権を与えられ、首を傾げながら考え始めた。
しばらくして、琉斗は顔を和也の方に向けると、
「和也兄ちゃん! 僕、ここに座る!」
そう元気な声で言いながら、テーブルの端を軽く叩き、目を輝かせて和也のことを見上げた。
「なら、琉斗はこの席な……」
和也は店員さんに向かい、腕を軽く上げて子供用椅子を頼んだ。
それから四人はメニューの中から品物を選び、注文を済ませると、琉斗を中心に会話が繰り広げられる。
「琉斗は、おじちゃんのこと好き?」
「うん! スッゴイ好き! 消防士さんだからカッコいいってのもあるんだけど……ママと違って玩具も買ってくれるし、ご飯作ってくれるし、遊んでくれるから!」
無邪気な笑顔で話す琉斗の様子に、和也は微笑んでいた。だが、何故だか、和也の前に座っている人物から氷のような視線を感じるのは気のせいだろうか。
そんな冷たいオーラを放たれていては、さすがの和也も頭を上げることができない状況だった。