しかし、子供相手にそんなに鋭いオーラというか嫉妬心を送らなくてもいいと思うのだが、裕実の場合、どうしてもそういった感情が表に出てしまうようだ。
和也はため息をつくと、ゆっくりと顔を上げ、視線を送り続ける裕実の方を見た。
「あのさぁ、裕実、一つ言っていいか?」
和也がそう言いかけたところで、望は珍しく和也が何を言おうとしているのか察したのか、素早く和也の口を手で塞ぎ、和也の耳元で囁いた。
「子供がいる前で、そんなことを言う気かよ……!」
望にそう言われて、ようやく和也は冷静さを取り戻したのか、目を見開いて望の方を振り返る。
「悪ぃ悪ぃ……そうだったな……今日は琉斗がいたんだった……」
和也はその望の言葉で落ち着きを取り戻したのか、そのまま椅子に寄りかかった。
それからは静かな時間が流れた。
裕実は、和也が琉斗と話すことに嫉妬しているようで、和也はそれに気付いてから琉斗に話しかけることができなくなってしまった。
さらに、変なところで裕実が嫉妬していることに、和也は少しだけ怒りを覚えているらしい。
望と裕実はもともと大人しい性格で、自分から話をするタイプではない。そのため、和也たちがいる席はいつも以上に静まり返っていた。
注文した品物が運ばれてきても、和也たちの席の雰囲気は変わらない。
きっと琉斗も何かを感じ取っているのだろう。あまりに大人しくしていることから、それが伺える。
静かなまま食事を終えると、
「飯、食ったから行くか……」
望が珍しく声をかけた。
「そうだな」
和也はいつもより低い声でそう言うと、ゆっくりと席を立った。
先に歩き出したのは望だった。望は会計を済ませると琉斗の手を引き、店を出て行った。
すると琉斗は望の方を見上げて尋ねた。
「ねぇ、何でさっき和也兄ちゃんと裕実兄ちゃん喧嘩してたの?」
子供なりに何かを感じ取ったのか、琉斗のそんな質問に望は目を丸くした。
だが、望がその質問に簡単に答えられるわけもなく、
「あー、んー、どうしてなんだろうな? 俺にも分からないや……」
と、どうにかごまかそうとしている様子だった。