和也ならどうにか誤魔化して、子供からの健気な質問にも答えられるのだろうが、望にはうまく答えることができないようだ。
「ねぇ! ねぇ! 何で、和也兄ちゃんと裕実兄ちゃんも一緒に望兄ちゃんのお家に来るの?」
「あ、えーと……それはだな?」
琉斗は、何でも聞きたがる年頃のようだ。気になったことを何でも質問し、しかも疑問に思ったことをストレートにぶつけてくる。
望は子供に慣れていない。それに加えて、琉斗は望が答えにくい質問ばかりしてくるから、望としては困り果てる。
だが、悪気なく純粋に質問してくる琉斗に対して、望が怒るわけにもいかず、この状況では望なりに誤魔化して説明するしかないだろう。
望はとりあえず和也にパスしたいと思ったが、琉斗を和也に渡すと、和也が琉斗ばかり構い、それを見た裕実が嫉妬してしまう。
だから望は、店を出てからは琉斗のことを自分が構うようにしていたのだった。
ふと気がつくと、琉斗が望の顔をじっと見上げているのが目に入った。
「望兄ちゃん!」
「ん?」
「僕が言ってること聞こえてる?」
「ぅん……あ、ああ……まぁな……」
「んじゃ、今、僕が言ったこと言ってみてよ」
そう、笑顔で言う琉斗。
「あ、だからだな……あれだろ?『和也兄ちゃんと裕実兄ちゃんが何で家に来るか?』だろ?」
「そうなんだけどー!」
「だから、それはだな……」
望がまた琉斗の質問に答えられずにいると、その様子を見ていた和也が望を手招きし、耳元で何かを囁いた。
和也が望に助言したつもりだったのだが、その直後、望は大きな声を上げる。
「そんなこと言える訳ねぇだろうがー!」
「言っちまっていいからよー。どうせ、まだ、そんなこと分からないだろ?」
「いやぁ、分かってると思うんだけどなぁ。だってよ、昨日……」
そこまで言うと、望は和也の耳元で、昨日、琉斗が望と雄介にしてきた質問をそっと伝える。
「そんな質問をしてくるんだから、知らないことはないだろうよー」
「んー、意味分かってねぇで使ってんじゃね?」
「いやぁ、それがそうでもなさそうなんだけどなぁ?」