「琉斗君が……望さんとお風呂に入りたいって言ってるんですけど……」
「……へ? 琉斗は裕実が入れてくれるんじゃなかったのか?」
「確かに僕は言いましたけど……琉斗君が僕ではなく、望さんと入りたいって言っているんですよ」
いったい和也と裕実は、先程、望と琉斗の仲が悪くなった時に琉斗に何を吹き込んだのだろうか。望はそのことをまだ知らない。お風呂に入っている間にでも和也か裕実に聞こうと思ったが、どうやらそれどころではなさそうだ。
望が悩んでいると、琉斗が望の傍へと近寄り、望の腕を掴む。
「望兄ちゃんと一緒にお風呂に入りたい!」
そう甘えたような瞳で望を見上げる琉斗。
「そんなことを言われたら、そりゃー、望が琉斗のことをお風呂に入れてあげないとだよなぁ」
和也は茶化すように言うが、望は無言の圧力を放ちながら和也を睨む。
流石の和也もその怖いオーラに押され、珍しく口を閉ざして大人しくなった。
しかし、雄介がいない時に限ってこうしたハプニングが起きるものなのだろうか。雄介がいれば、きっとこんなことにはならなかっただろう。
望は困ったような顔で琉斗を見つめたが、子供である琉斗はそんな望の表情には気付かず、ただ首を傾げている。
「……琉斗は、やっぱり俺とじゃないとお風呂に入らないのか?」
「うん! だって、僕が一番好きなのは望兄ちゃんだから! だから、望兄ちゃんとじゃないとお風呂に入らない!」
そう言い切る琉斗に、望はさらに困った表情を浮かべた。
「裕実兄ちゃんもいい人だよ……」
「うん! でも、僕は望兄ちゃんがいいの!」
「じゃあさぁ、さっきまで俺のこと嫌いって言っていたのに……何で急に俺のことを『好き』になったんだ?」
和也たちに聞かなくても、どうやら流れ的に琉斗が望を好きになった理由が聞けそうだった。
「あのねー。さっき、和也兄ちゃん達から聞いたんだけど……お母さんのことを治してくれるのは望兄ちゃんしかいないってことを聞いたからだよ!」