「せやな……遅刻ついでなんやから、今日は休んだらええやんかぁ。たまには平気やろ?」
「だけど」
「そう言っている間に時間は過ぎて行くだけだぞ」
そうタイミングよく、望の携帯が部屋内に響き渡る。
一瞬、ドキリとした望だったが、携帯の画面を見ると溜め息をつきながら電話を取る。
「はい」
『望か?』
「ああ、つーか、俺に電話をしといて、『望か?』はねぇだろ?」
『……って、君ね……今の君の立場を分かってるかな? 私がどういう意味で君の携帯に電話したかって……』
いつもの調子で、望は電話の相手である裕二に出たのだが、今日の電話では、どうやら院長という立場で裕二が望に話をしてきたらしい。
一方、望も裕二の小さな怒りに気付いたようだ。
「……今日は病院に遅刻の電話をしなくて申し訳ございません。今後からは遅刻しないように心がけします」
望にしては珍しく、父親に対して敬語を使い、謝っていた。
その望の言葉に裕二は溜め息をついたものの、
『まぁいい……今日は人が足りてるから、ゆっくり休みにしたまえ。だが、次回こんなことがあったら、病院を辞めてもらうからね。確かに今の君にとってプライベートも大事なようだけど、君が今している仕事は患者の命を守っている仕事だということを忘れないように……』
「はい、分かりました」
そう言うと望は電話を切った。
流石の和也も雄介も、今の電話が誰からか分かっていたからこそ、電話中は静かにしていたようだ。
望が電話を切ると、溜め息をつき、唇を結ぶ。
そして和也は遠慮がちに望のことを見つめ、
「……今の電話、親父さんからだったんだろ?」
「まぁな……流石に今日は怒られたよ」
「だよな。流石に遅刻はまずいよな?」
「まずいってもんじゃねぇよ。『患者の命を守っているんだから』って親父に怒られた」
「分かってる。だけど、俺達が悪いんだからよ」
「ああ、そういうことだ……『またこんなことがあったら、病院を辞めてもらう』って言っていたから、親父……相当、怒ってるらしいな。とりあえず、今日は休みをくれたけど、明日は朝一番で親父に謝りに行かないとな」