望が家を出て三十分後、和也が住むマンションの駐車場に到着していた。
まだ和也には連絡をしていない。
今の時間だと、和也はすでに琉斗を迎えに行き、帰宅している頃だろう。
望は駐車場からエレベーターに乗り、和也の家に向かいながら電話をかけた。
数回のコール音の後、和也が電話に出る。
「悪ぃ……和也、今日、泊めてくれねぇか?」
望の暗い声に、和也はそのトーンだけで何かを察したのだろう。
『さては、雄介と喧嘩したな』
一発で見抜かれたその一言に、望は思わず頭にきたようだ。
溜め息をつくと、
「もういい!」
そう怒鳴るように言い、電話を切ってしまった。
しかし和也にしてみれば、いきなりキレられる理由が分からない。
望は和也の家に向かおうとしていた足を止め、車に戻ろうとしたその瞬間、いきなり誰かに肩を掴まれた。驚いてそちらを見ると、そこにいたのは電話相手の和也だった。
「ちょっと待てよ! 望。人に電話しといて、一方的に切るってどういう意味だよ? お前が俺に電話してきたってことは、助けを求めてきたってことだろ?」
肩を掴まれ、図星を突かれた望はその場で固まってしまう。
「言い返せないってことは、そういうことなんだろ? とりあえず琉斗は部屋で待たせてるから、俺ん家に来いよ……それから話を聞くからさ」
和也は無言の望を肩で押しながら、部屋へと連れて行った。
部屋に着くと、望は疑問を口にした。
「ところでさ、お前、何で俺がマンションの駐車場にいるって分かったんだ?」
「そんなの簡単だよ。お前の声が響いて聞こえたからさ。声が響いて聞こえる場所なんて限られてるだろ? お風呂とか地下駐車場とか。望がお風呂から電話してくるなんて考えられないからな。となれば地下駐車場だ。地下駐車場があるのは、俺が住んでるマンションだけだから、電話の後に駐車場に行ってみたら案の定、お前がいたってわけさ」