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ー天使ー72

「とりあえず、望が俺の心配をしてくれるのは嬉しいねんけどな。琉斗のことも考えてやらなあかんやろ。まだ琉斗は子供やぞ。親がいなくて我慢しとる状況やのに、俺らが『どっか行かへんか?』って誘わんでどうすんねん。せやから、今、親代わりの俺らが連れ出して気分転換させたらな、かわいそうやろ? それに琉斗……なんも言わんのは、俺らに遠慮しとるだけやしな。だからや、今まで我慢してた分、何かしてあげへんと」


 雄介の言葉を聞いて、望は腕を組んで頭を少し俯かせ、何かを考え込む。納得したのかどうかは分からないが、その表情には迷いが見えた。


 その様子に気づいた和也は、もう一押しすれば望も折れるだろうと確信し、立ち上がると望のそばへ向かう。


「ほら、雄介もそう言ってるしさ。今日は琉斗のために遊園地行こうぜ」

「だけどさぁ」

「だけど、なんだよ。まさか望が遊園地が嫌いとか?」

「いや、そういう問題じゃねぇんだよな。逆に行ったことねぇから行きたいってのはあるんだけどな」


 その言葉に一瞬目を丸くしたのは雄介だった。確かに、今までデートの場所に遊園地を選んだことはなかったが、望が遊園地に行ったことがないとは意外だった。


「ホンマに望は遊園地行ったことないんか?」

「ああ、ねぇよ。前に言ったことあんだろ? 俺、小さい頃ばあちゃんに育てられてたから、『そんなハイカラなとこ行かねぇよ』って言われてさ。それに、俺はずっと勉強漬けだったから、高校でも大学でも友達と行く暇なんかなかったしな。だから、実際少しは行ってみたいってのはあるんだけど、その……雄介のことを考えると……だな」


 望は最初はスラスラ話していたが、次第に声が小さくなっていく。雄介と二人きりなら素直に心配だと言えただろうが、皆の前ではまだ恥ずかしさが勝ってしまうようだ。


「せやから、俺は大丈夫やって言うてるやろ」


 雄介は望の気持ちを汲みながらも、あくまで安心させようとするが、望はまだ納得しきれない様子だった。


「ほんなら、俺がちょっと寝たら、それから遊園地に行ったらええんやな?」

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