「本当はお母さんにも来てほしいんだけど、お母さんは病気で来られないんでしょ? だから、和也兄ちゃんと裕実兄ちゃんと望兄ちゃんと雄介おじさんに見に来てほしいんだけどなぁ。今ね、みんなで踊りの練習もしてるんだー」
「行くのは別に構わねぇよ……その運動会っていつなんだ?」
「んー? 今度の今度の日曜日!」
きっと琉斗は再来週の日曜日と言いたいのだろうが、まだ子どもでそんな言葉を知らないのだろう。だから、そう表現したに違いない。
「再来週か……まぁ、日曜なら空いてるけどな」
和也がそう答えている間に、望は顎に手を当てて何か考え始めたようだった。
そして、次の瞬間、琉斗の方に顔を向けて言った。
「多分、再来週なら、琉斗のお母さんも運動会に行けると思うぜ」
その望の言葉に、和也も何かを思い出したようだ。
「あ、そうか……確か、琉斗のお母さんの手術、今週の木曜日の予定だったもんな」
「だからさ、それさえ終われば、琉斗の運動会まで一週間以上あるわけだろ? 流石に退院まではいかねぇけど、一日ぐらいなら退院許可を出してもらえるしよ。まぁ、後は琉斗のお母さん次第ってとこかな? だから、琉斗、お母さんに運動会の話してもいいぞ。そしたら、早く回復できるかもしれないからな」
「うん! 分かった! 今度、お母さんとこに行ったら話すよ!」
ちょうど話が途切れた頃、車は遊園地の駐車場へと到着したようだった。
少し遅い時間に家を出てきた和也たち。遊園地は既に開園しているらしく、車内にいてもジェットコースターからと思われる騒ぎ声が聞こえてくる。
「さて、雄介を起こして、遊園地に行きますか」
「そうだな」
望は和也の言葉に答えると、今度は琉斗の方に視線を向けた。
「琉斗、雄介のことを起こしてやってくれよ」
「うん!」
琉斗は元気な声で答えると、雄介の膝の上に乗り、大きな声で叫んだ。
「雄介おじさん! 遊園地に着いたから起きて!」
その車内に響き渡るような声に、流石に人間はすぐに目を覚ましてしまうものだ。雄介も例に漏れず、声に驚いて目を丸くしながら飛び起きた。
「ホンマ、ビックリしたわぁ」
そんな雄介の前には、満面の笑みを浮かべた琉斗の姿があった。
それで雄介は思い出したのだろう。
「せやったな……今日は遊園地に来たんやったな」