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ー天使ー80

「すげぇ人だよな……入口のチケット売り場より並んでるかも」


 和也が呟くと、隣にいた裕実が不安げな声を上げた。


「それって、僕のせいですか?」


 その切なそうな声に和也が気付かないはずがない。すぐに裕実の方に顔を向け、慌ててフォローを入れる。


「違うって! まさか、こんなに人が並んでるなんて思わなかっただけだし。それに、俺たちが乗り物を決めるの遅かったのが悪いんだよ」

「なら、いいんですけどね……」


 裕実は一応納得した様子を見せたものの、まだ少し不機嫌そうにしている。その様子に、少し困ったような空気が漂い始めた。


 その時だった。望が裕実に顔を向け、ぽつりと尋ねた。


「なぁ、裕実。この乗り物って、どんなやつなんだ?」


 その意外な質問に、和也と雄介は目を丸くする。普段は口数の少ない望が、裕実をフォローするかのような態度を見せたからだ。


「あ、望さんって遊園地に来たことがなかったんでしたっけ?」

「ああ、そうだよ。だからどんな感じなのか分からなくてさ。乗る前に知っておくのも悪くないだろ?」

「そうですね。この乗り物はですね……」


 裕実は、観覧車について丁寧に説明し始めた。その口調は親切そのもので、望への気遣いが感じられる。これが和也や雄介だったら、軽く茶化してしまい、望を怒らせてしまうかもしれない。


 一方で、和也と雄介は完全に蚊帳の外状態だった。裕実と望は、まるで二人だけの世界にいるかのようで、雄介たちの方へ視線を向けることすらなかった。


「あの二人って、めっちゃ仲ええんか?」


 雄介は小さな声で和也に話しかける。どうやら、裕実と望がこうして話しているのを初めて目にしたらしい。


「ああ、そうみたいなんだよなぁ。三人でいるとさ、俺が仲間外れになるくらい、あの二人だけで話が盛り上がることがあるんだよ」

「そうやったんか……俺、今まであの二人が話してるの見たことなかったから、ちょっと意外やったわ」

「でもな、雄介。あの二人を怒らせると、後でめちゃくちゃ怖いぞ。マジで痛い目見るから、怒らせない方がいい」

「ホンマか!? ほんなら、気ぃつけなあかんな」


 二人がひそひそ話をしているうちに、列は少しずつ進んでいた。気がつけば、順番まであと十人ほどになっている。


「もう、三十分くらい待ったかなぁ?」


 退屈してきた雄介は、軽く体を伸ばしてぼやく。和也はそんな彼の様子を見て笑いながら言った。


「まぁまぁ、もうちょっとだろ。初っ端から一番人気に並ぶんだから、仕方ねぇって」

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