「すげぇ人だよな……入口のチケット売り場より並んでるかも」
和也が呟くと、隣にいた裕実が不安げな声を上げた。
「それって、僕のせいですか?」
その切なそうな声に和也が気付かないはずがない。すぐに裕実の方に顔を向け、慌ててフォローを入れる。
「違うって! まさか、こんなに人が並んでるなんて思わなかっただけだし。それに、俺たちが乗り物を決めるの遅かったのが悪いんだよ」
「なら、いいんですけどね……」
裕実は一応納得した様子を見せたものの、まだ少し不機嫌そうにしている。その様子に、少し困ったような空気が漂い始めた。
その時だった。望が裕実に顔を向け、ぽつりと尋ねた。
「なぁ、裕実。この乗り物って、どんなやつなんだ?」
その意外な質問に、和也と雄介は目を丸くする。普段は口数の少ない望が、裕実をフォローするかのような態度を見せたからだ。
「あ、望さんって遊園地に来たことがなかったんでしたっけ?」
「ああ、そうだよ。だからどんな感じなのか分からなくてさ。乗る前に知っておくのも悪くないだろ?」
「そうですね。この乗り物はですね……」
裕実は、観覧車について丁寧に説明し始めた。その口調は親切そのもので、望への気遣いが感じられる。これが和也や雄介だったら、軽く茶化してしまい、望を怒らせてしまうかもしれない。
一方で、和也と雄介は完全に蚊帳の外状態だった。裕実と望は、まるで二人だけの世界にいるかのようで、雄介たちの方へ視線を向けることすらなかった。
「あの二人って、めっちゃ仲ええんか?」
雄介は小さな声で和也に話しかける。どうやら、裕実と望がこうして話しているのを初めて目にしたらしい。
「ああ、そうみたいなんだよなぁ。三人でいるとさ、俺が仲間外れになるくらい、あの二人だけで話が盛り上がることがあるんだよ」
「そうやったんか……俺、今まであの二人が話してるの見たことなかったから、ちょっと意外やったわ」
「でもな、雄介。あの二人を怒らせると、後でめちゃくちゃ怖いぞ。マジで痛い目見るから、怒らせない方がいい」
「ホンマか!? ほんなら、気ぃつけなあかんな」
二人がひそひそ話をしているうちに、列は少しずつ進んでいた。気がつけば、順番まであと十人ほどになっている。
「もう、三十分くらい待ったかなぁ?」
退屈してきた雄介は、軽く体を伸ばしてぼやく。和也はそんな彼の様子を見て笑いながら言った。
「まぁまぁ、もうちょっとだろ。初っ端から一番人気に並ぶんだから、仕方ねぇって」