「そうだったのか……でもさ、俺には隠さなくても良かったんじゃねぇのか? ほら、俺は看護師だったし、どっちみち院長にはなれないんだからさぁ」
「ま、そうなんだけどな。でも、一応、言わない方がいいって思って言わなかっただけだし」
「そっか……。その話をしていた頃は俺達の仲がこんなに深くなかった訳だしな。もしかしたら、俺がスパイみたいなことしてたら、確かにヤバかっただろうしな」
「それは無いとは思っていたけどな。とりあえず、俺はなるべくなら隠したかったんだよ」
「でも、親父さんが帰って来なくても、知ってる人は知ってたんじゃねぇのか?『吉良』って名前、そうそうある訳じゃないしー」
「んー……でも、今まで聞かれたことがなかったからなぁ。それに例え聞かれても『関係ない』って答えるかなぁ?」
「そんなに親父さんと望との関係を周りに気付かれたくねぇのか?」
「それに、周りからちやほやされるのも嫌だしな……って前にも言っただろ?」
「あー……そうだったな」
「お前が、もし、そんな立場に居たなら、俺と同じことをしてたかもしれねぇぜ」
「そうかなぁ?」
「周りにちやほやされたら、仕事が出来なくなっちまうと思うぜ。そんなんじゃ、自分のスキルを上げられる訳がねぇじゃねぇか。俺的にはそういう事、元から嫌いだしな。せっかく、医者になれたんだ。それなら、ちゃんとした医者になりてぇし、俺の立場上、いずれ院長にならなきゃならない訳だから、上にいる人間が出来ないで、下にいる人間を動かすことは出来ねぇだろ? 上がまず見本にならなきゃ下を動かすなんてことは出来ねぇんだよ」
「あ、ま……確かにそりゃそうだ」
「それに自分が出来なければ、下にそれを教えることが出来ない訳だしな。和也もそうだろ? お前はこの病院に来て長いんだから……今はもう一通りの業務はこなすことは出来るだろ? だから、下に教えることが出来る訳だしー。それに、逆に下の人間の気持ちになってみたらわかるぜ。命令ばっかされていて、上が動かない、教えてもらえないじゃ嫌だろ?」
「確かに、それはあるよな。ほら、前に望と喧嘩して、俺が違う医者とコンビ組んだことがあったじゃねぇかー……そん時の医者がそんな感じだったんだよなぁ」